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Alt Heiderberg:アルト・ハイデルベルク<br />Wilhelm Meyar-Foerster : 番匠谷英一訳 (角川文庫 912)<br /><br />  土曜日ごとにカルスブルクで発行される、四つ折判の、ひどく古風な紙に印刷された小新聞、「政府週報」に、四月十八日、つぎのような記事が掲載された。<br />「公子殿下には・・・・・・目出度く卒業試験に合格あそばされた。その御成績は、ギリシャ語、ラテン語、フランス語、英語においては「優」、・・・・・・総評は「優」、すなわち「優秀な御成績」であらせられる。<br />なお公子殿下には来る五月一日、一年間の御予定をもって、ハイデルベルク大學に入學あそばされる。<br /><br />(当地は1997年と2000年に訪問。この旅行記は上記作品からこの小説の紹介を兼ねて抜粋、転載させて頂き、編集した。)

Nr.1 Alt Heidelberg / 城趾逍遥

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2000/06/02 - 2000/06/14

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Alt Heiderberg:アルト・ハイデルベルク
Wilhelm Meyar-Foerster : 番匠谷英一訳 (角川文庫 912)

  土曜日ごとにカルスブルクで発行される、四つ折判の、ひどく古風な紙に印刷された小新聞、「政府週報」に、四月十八日、つぎのような記事が掲載された。
「公子殿下には・・・・・・目出度く卒業試験に合格あそばされた。その御成績は、ギリシャ語、ラテン語、フランス語、英語においては「優」、・・・・・・総評は「優」、すなわち「優秀な御成績」であらせられる。
なお公子殿下には来る五月一日、一年間の御予定をもって、ハイデルベルク大學に入學あそばされる。

(当地は1997年と2000年に訪問。この旅行記は上記作品からこの小説の紹介を兼ねて抜粋、転載させて頂き、編集した。)

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  • 小説「Alt Heiderberg」:アルト・ハイデルベルク<br /><br />Wilhelm Meyar-Foerster : 番匠谷英一訳 (角川文庫 912) s36・第11版(初版はs29)<br /><br />あらすじについては下記のブログ参照されたい。<br /><br />http://cgi.members.interq.or.jp/www1/kunioki/album72_s6.shtml

    小説「Alt Heiderberg」:アルト・ハイデルベルク

    Wilhelm Meyar-Foerster : 番匠谷英一訳 (角川文庫 912) s36・第11版(初版はs29)

    あらすじについては下記のブログ参照されたい。

    http://cgi.members.interq.or.jp/www1/kunioki/album72_s6.shtml

  • 戯曲「アルト・ハイデルベルク」<br /><br />翻訳 番匠谷英一 岩波文庫2207:第9版(s16)<br />(初版:s10)<br /><br />ヴィルヘルム・マイヤーフェルスターは 1889年 「Karl Heinrich:カール・ハインリッヒ」として 小説で発表、1901年戯曲化。同年11月 ベルリン劇場で上演、舞台的大成功を収めた。<br /><br />我が国での初演は 1912年(大正2年)松井須磨子のケティーで有楽座に於いて文芸協会が上演。その後 つい先頃まで活躍された滝沢修 山本安英 杉村春子などが 大正13、15、昭和9年に築地座や築地小劇場で出演している。

    戯曲「アルト・ハイデルベルク」

    翻訳 番匠谷英一 岩波文庫2207:第9版(s16)
    (初版:s10)

    ヴィルヘルム・マイヤーフェルスターは 1889年 「Karl Heinrich:カール・ハインリッヒ」として 小説で発表、1901年戯曲化。同年11月 ベルリン劇場で上演、舞台的大成功を収めた。

    我が国での初演は 1912年(大正2年)松井須磨子のケティーで有楽座に於いて文芸協会が上演。その後 つい先頃まで活躍された滝沢修 山本安英 杉村春子などが 大正13、15、昭和9年に築地座や築地小劇場で出演している。

  • 戯曲「アルト・ハイデルベルク」<br /><br />翻訳 丸山 匠 岩波文庫427-1<br />第3版 1888年 (初版1980年)<br /><br />昔の若者達(彼らの祖父母や曾祖父母)が感激して読んだこの作品も 現今では日本でも独逸でもすっかり忘れられた作品の様だ。又、この文庫もおそらく絶版したと思われるが、最近岩波文庫は戦前の作品を多数復刻しているから、是も再版されるかも知れない。<br /><br />おそらく誰でもがチョッピリ甘い、そして少し苦い、それぞれの「アルト・ハイデルベルク」(alt=old)<br />を心の何処かに収めているに違いない。あの「ベルバラ」の池田理代子さんが是を漫画化、劇画化し、さらに宝塚で上演されれば”リヴァイヴァル”されるのでは無いだろうか? 昨今の殺伐とした時代には かえってこの作品が若者達に受けるかもしれない。

    戯曲「アルト・ハイデルベルク」

    翻訳 丸山 匠 岩波文庫427-1
    第3版 1888年 (初版1980年)

    昔の若者達(彼らの祖父母や曾祖父母)が感激して読んだこの作品も 現今では日本でも独逸でもすっかり忘れられた作品の様だ。又、この文庫もおそらく絶版したと思われるが、最近岩波文庫は戦前の作品を多数復刻しているから、是も再版されるかも知れない。

    おそらく誰でもがチョッピリ甘い、そして少し苦い、それぞれの「アルト・ハイデルベルク」(alt=old)
    を心の何処かに収めているに違いない。あの「ベルバラ」の池田理代子さんが是を漫画化、劇画化し、さらに宝塚で上演されれば”リヴァイヴァル”されるのでは無いだろうか? 昨今の殺伐とした時代には かえってこの作品が若者達に受けるかもしれない。

  • カル・ハインリッヒは・・・・これまで一ぺんだけ、伯父に連れられてドレースデンの宮廷へ大旅行したことがあったが、それももう十年も前のことであった。それにカルスブルクではめったに汽車に乗ったことはなかった。なぜならこの小さな侯爵領では、駿馬にむちうった方が、曲がりくねった軽便鉄道に乗るよりも、ずっと早く目的地に到達したからである。<br />

    カル・ハインリッヒは・・・・これまで一ぺんだけ、伯父に連れられてドレースデンの宮廷へ大旅行したことがあったが、それももう十年も前のことであった。それにカルスブルクではめったに汽車に乗ったことはなかった。なぜならこの小さな侯爵領では、駿馬にむちうった方が、曲がりくねった軽便鉄道に乗るよりも、ずっと早く目的地に到達したからである。

  • ひろびろとしたライン平野には、夕霞がたなびいていた。そして列車がダルムシュタット<br />を通過すると、山街道(ベルクシュトラーセ)ぞいの村々はもう夜の帷につつまれていた。おりおり燈火が窓外を通りすぎた。そして数マイルと離れていない西方の下手の方にライン河が流れていた。ライン河だ。南ドイツだ。右手には、列車とすれすれのところに、オーデンヴァルトの山々がそびえていた。地理で習った知識が、みんな間近くせまっているのである。<br /><br />「ハイデルベルク」- 「ハイデルベルク」 バ−デン地方のアクセントを持った車掌たちが、そう呼ばわりながら、列車にそってとうり、そしてドアをひらいた。<br /><br />(1953年 マンハイムのペンパルから来た絵葉書)

    ひろびろとしたライン平野には、夕霞がたなびいていた。そして列車がダルムシュタット
    を通過すると、山街道(ベルクシュトラーセ)ぞいの村々はもう夜の帷につつまれていた。おりおり燈火が窓外を通りすぎた。そして数マイルと離れていない西方の下手の方にライン河が流れていた。ライン河だ。南ドイツだ。右手には、列車とすれすれのところに、オーデンヴァルトの山々がそびえていた。地理で習った知識が、みんな間近くせまっているのである。

    「ハイデルベルク」- 「ハイデルベルク」 バ−デン地方のアクセントを持った車掌たちが、そう呼ばわりながら、列車にそってとうり、そしてドアをひらいた。

    (1953年 マンハイムのペンパルから来た絵葉書)

  • そのとき横町から音楽がひびいて、一群の人々がせまい通りから本通りへと雪崩をうって押しよせていった。やがてあたりは煙につつまれた。そしてラッパを吹き無数の炬火を持った一隊の學生たちが、公子のしばをねりあるいていった。<br /><br />真先にやって来たのは当番組合たるヴァンダーレン團で、みんな赤い帽子をかぶっていたが、それぞれ金のリボンをまきつけたバーデンの國旗の金、赤、金を現していた。つぎに<br />白のヘルメットをかぶったザクセン・プロイセン團、緑の帽子をかぶったヴェストファーレン團が、黄色い帽子をかぶったシュヴァーベン團、青い帽子をかぶったラインラント團があらわれ、最後に濃紺の帽子をかぶったザクセンが現れたが、彼らは各自の帽子に小さな菫の花束をつけていた。<br /><br />(哲学者の道の一本上のビスマルク塔からの眺め)<br />

    そのとき横町から音楽がひびいて、一群の人々がせまい通りから本通りへと雪崩をうって押しよせていった。やがてあたりは煙につつまれた。そしてラッパを吹き無数の炬火を持った一隊の學生たちが、公子のしばをねりあるいていった。

    真先にやって来たのは当番組合たるヴァンダーレン團で、みんな赤い帽子をかぶっていたが、それぞれ金のリボンをまきつけたバーデンの國旗の金、赤、金を現していた。つぎに
    白のヘルメットをかぶったザクセン・プロイセン團、緑の帽子をかぶったヴェストファーレン團が、黄色い帽子をかぶったシュヴァーベン團、青い帽子をかぶったラインラント團があらわれ、最後に濃紺の帽子をかぶったザクセンが現れたが、彼らは各自の帽子に小さな菫の花束をつけていた。

    (哲学者の道の一本上のビスマルク塔からの眺め)

  • 接骨木(ニワトコ)の花束を手にした娘が一歩前進して、も一度膝をかがめてお辞儀をした。それからぱっちりした、とび色の目で、憶する色なく彼を眺めて、明るい伸びやかな声で、<br /><br />「遠い國よりはるばると ネカーの河のなつかしき<br /> 岸に来ませるわが君に 今ぞささげんこの春の<br /> いと美わしき花かざり いざや入りませわが家に<br /> さわれ去ります日もあらば しのびたまわれ若き日の          <br /> ハイデルベルクの學びやの 幸おおき日の思い出をーどうぞ」<br />

    接骨木(ニワトコ)の花束を手にした娘が一歩前進して、も一度膝をかがめてお辞儀をした。それからぱっちりした、とび色の目で、憶する色なく彼を眺めて、明るい伸びやかな声で、

    「遠い國よりはるばると ネカーの河のなつかしき
     岸に来ませるわが君に 今ぞささげんこの春の
     いと美わしき花かざり いざや入りませわが家に
     さわれ去ります日もあらば しのびたまわれ若き日の          
     ハイデルベルクの學びやの 幸おおき日の思い出をーどうぞ」

  • カル・ハインリッヒは黙って彼女の顔を眺めた。それはカルスブルクのブロンドの娘たち<br />とはまるで違った、一風変わった娘であった。顔は南国風い浅黒く、捲毛は真黒で、目も同じように黒かった。そして身体つきにどことなく魅力があって、なんとなくジプシーの娘を思いださせた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・<br />彼は彼女の肩に手をかけて、その方に身をかがめた。数秒間二人はじっと見合っていた。そして彼は彼女に接吻した。それは彼の生まれて初めての接吻であった。<br /><br />(バーデン・ビュルテンベルク州旗/プファルツ選定侯の紋章)

    カル・ハインリッヒは黙って彼女の顔を眺めた。それはカルスブルクのブロンドの娘たち
    とはまるで違った、一風変わった娘であった。顔は南国風い浅黒く、捲毛は真黒で、目も同じように黒かった。そして身体つきにどことなく魅力があって、なんとなくジプシーの娘を思いださせた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    彼は彼女の肩に手をかけて、その方に身をかがめた。数秒間二人はじっと見合っていた。そして彼は彼女に接吻した。それは彼の生まれて初めての接吻であった。

    (バーデン・ビュルテンベルク州旗/プファルツ選定侯の紋章)

  • ネカー河だ。シラーの郷里であり、ウーラントの生まれたシュヴァーベンから、ホーエンシュタウフェン家の皇帝たちのシュヴァーベンから流れてくるのだ。チュービンゲンの古い要塞のそばを流れ、ロイトリンゲンをよぎり、シュトウットガルトに向かって、ハインブロンをとおり、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの古城のほとりを流れ、寸地尺土といえども思い出と詩を呼吸している國をとおって流れて行くのだ。<br />

    ネカー河だ。シラーの郷里であり、ウーラントの生まれたシュヴァーベンから、ホーエンシュタウフェン家の皇帝たちのシュヴァーベンから流れてくるのだ。チュービンゲンの古い要塞のそばを流れ、ロイトリンゲンをよぎり、シュトウットガルトに向かって、ハインブロンをとおり、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンの古城のほとりを流れ、寸地尺土といえども思い出と詩を呼吸している國をとおって流れて行くのだ。

  • ついにネカー河はハイデルベルクに到って、さらにラインの平々坦々たる平野に流れでる。ネカー河は地図の示すようにマンハイムに終わるのではなくて、ハイデルベルクに終わっているのである。<br />

    ついにネカー河はハイデルベルクに到って、さらにラインの平々坦々たる平野に流れでる。ネカー河は地図の示すようにマンハイムに終わるのではなくて、ハイデルベルクに終わっているのである。

  • りすが一匹、目の前の常春藤(きずた)の中をとびまわっていた。それ以外何ひとつ動いてはいなかった。彼は黙って先の方へ歩いていった。橋をわたって城の中庭にはいり、そこから露台に出て、崩壊した塔のそばを引き返した、さらに手すりにそって進むのであった。<br />

    りすが一匹、目の前の常春藤(きずた)の中をとびまわっていた。それ以外何ひとつ動いてはいなかった。彼は黙って先の方へ歩いていった。橋をわたって城の中庭にはいり、そこから露台に出て、崩壊した塔のそばを引き返した、さらに手すりにそって進むのであった。

  • 彼はこれまでにこんなに幸福だったことがあっただろうか。・・・・・・・<br />ケティー、自由、ハイデルベルク、ネカー河、城、春、黄金色の未来 ただ一つの歓びの流れ、ただ一つの陶酔となって。<br /><br /><br />(Glockenturm:鐘楼 14世紀)

    彼はこれまでにこんなに幸福だったことがあっただろうか。・・・・・・・
    ケティー、自由、ハイデルベルク、ネカー河、城、春、黄金色の未来 ただ一つの歓びの流れ、ただ一つの陶酔となって。


    (Glockenturm:鐘楼 14世紀)

  • 彼はじっと學生たちを観察した。彼らは全部ザクセンの色の學生帽子とバンドをつけていた。他に何ひとつ、当時 七十年代の終わりごろ  書物や 芝居の舞台にふらふらと現れた、かのなつかしい伝統的な學生姿を思い出させるものはなかった。紐付きの上着とか、膝まである長靴とか、タバコのパイプとかもみられなかった。しかもそれらの優美な青年たちは、そうした半ば忘れられた仮装もつけずに、けっこう彼らの學生生活を楽しんでいたのである。<br /><br />(Gesprenterturm:崩壊塔 15世紀)

    彼はじっと學生たちを観察した。彼らは全部ザクセンの色の學生帽子とバンドをつけていた。他に何ひとつ、当時 七十年代の終わりごろ  書物や 芝居の舞台にふらふらと現れた、かのなつかしい伝統的な學生姿を思い出させるものはなかった。紐付きの上着とか、膝まである長靴とか、タバコのパイプとかもみられなかった。しかもそれらの優美な青年たちは、そうした半ば忘れられた仮装もつけずに、けっこう彼らの學生生活を楽しんでいたのである。

    (Gesprenterturm:崩壊塔 15世紀)

  • 誰かが他の者によびかけたかと思うと、やがて十二人の學生たちは全部テーブルのまわりに整列して合唱した。<br /><br />「気はすみて風静もりぬ 家なかにこもるはわろし<br />日のひかりさやかに光て照りて 大空のもとこそよけれ」<br /><br />(シェッフェルのテラスから)

    誰かが他の者によびかけたかと思うと、やがて十二人の學生たちは全部テーブルのまわりに整列して合唱した。

    「気はすみて風静もりぬ 家なかにこもるはわろし
    日のひかりさやかに光て照りて 大空のもとこそよけれ」

    (シェッフェルのテラスから)

  • 朗らかな逍遥の歌が、こうした春の日に詩人を迎えて、ただ若き十二の咽喉からのみハイデルベルクの愛好者に対して送られるかと思われるほどの感激をもって斉唱された。<br /><br />「ハラホー 戸をうちがちともに飲まほし わがまえにありしうまざけ<br />シュタッフェルシュタインの聖ファイトよ ゆるしたまえ渇えと罪を」<br /><br />(Torturm:城門塔)

    朗らかな逍遥の歌が、こうした春の日に詩人を迎えて、ただ若き十二の咽喉からのみハイデルベルクの愛好者に対して送られるかと思われるほどの感激をもって斉唱された。

    「ハラホー 戸をうちがちともに飲まほし わがまえにありしうまざけ
    シュタッフェルシュタインの聖ファイトよ ゆるしたまえ渇えと罪を」

    (Torturm:城門塔)

  • ケーティーは何時も午後だけ、ネカー河畔のリューダーの酒場で働いていた。・・・・・<br />ハイデルベルクにはヨーゼフ・リューダーの酒場以上のものは、以前にもいくつかあったのであるが、この古めかしい仮小屋風のつくりにはなんともいえない落着があった。<br /><br />學生たちの方では、ケーティーをとても魅力的だと思っていた。ケーティーの誕生日には花束が山と贈られた。そして彼らがやってくるのも、ほとんどはリューダーの葡萄酒や、リューダーのおかみさんのつくった子羊の腎臓のついた焼肉のためでもなく、もちろんケーティーのためであった。<br /><br />(Englischerbau:英吉利翼棟)<br />

    ケーティーは何時も午後だけ、ネカー河畔のリューダーの酒場で働いていた。・・・・・
    ハイデルベルクにはヨーゼフ・リューダーの酒場以上のものは、以前にもいくつかあったのであるが、この古めかしい仮小屋風のつくりにはなんともいえない落着があった。

    學生たちの方では、ケーティーをとても魅力的だと思っていた。ケーティーの誕生日には花束が山と贈られた。そして彼らがやってくるのも、ほとんどはリューダーの葡萄酒や、リューダーのおかみさんのつくった子羊の腎臓のついた焼肉のためでもなく、もちろんケーティーのためであった。

    (Englischerbau:英吉利翼棟)

  • みんなの視線は緊張し、好奇心にもえ、やや羨望的に・・・・・すらりとした若い紳士の方にむけられたからである。・・・・・・さては、あれが公子なのか。カルスブルクの公子殿下だ「サクソニア團」がかって獲得したうちで最も輝かしき新入生であり、正真正銘の公子殿下なのだ。・・・その時・・・驚いた、ケティーははなれわざをやってのけたのである。みんなは」背のびをして、それを見ようとした。<br />彼女が公子の両手をとって挨拶したのだ。・・・・・公子は真っ赤になった。

    みんなの視線は緊張し、好奇心にもえ、やや羨望的に・・・・・すらりとした若い紳士の方にむけられたからである。・・・・・・さては、あれが公子なのか。カルスブルクの公子殿下だ「サクソニア團」がかって獲得したうちで最も輝かしき新入生であり、正真正銘の公子殿下なのだ。・・・その時・・・驚いた、ケティーははなれわざをやってのけたのである。みんなは」背のびをして、それを見ようとした。
    彼女が公子の両手をとって挨拶したのだ。・・・・・公子は真っ赤になった。

  • ある日の午後、公子は、新入生が學期の初め最初の決闘をしたときよくあるように、頭を打ちわられ、左の頬に切り傷をうけ、つまりすっかりのされて馬車で下宿に運び込まれたが、・・・・・博士は・・・・・すっかりふるえあがってしまった。<br />

    ある日の午後、公子は、新入生が學期の初め最初の決闘をしたときよくあるように、頭を打ちわられ、左の頬に切り傷をうけ、つまりすっかりのされて馬車で下宿に運び込まれたが、・・・・・博士は・・・・・すっかりふるえあがってしまった。

  • やがて古城が彼方の山上の夜の静寂の中でかがやき、廃墟の窓がそれぞれ赤い光に照らされ、カル・ハインリッヒはうっとりとして、揺れる小舟の中で立ち上がって、・・・・・彼方では徐々に焔が消えていった。ただひろい城中の二三の窓のみが、なおもかがやいていたが、やがてそれらの火も、ネカー河にうつっていた最後の倒影も消えてしまった。<br />ボートは夜の静寂の中をすべっていった。カル・ハインリッヒとケーティーはぴったりと身をすりよせて黙って坐っていた。<br />

    やがて古城が彼方の山上の夜の静寂の中でかがやき、廃墟の窓がそれぞれ赤い光に照らされ、カル・ハインリッヒはうっとりとして、揺れる小舟の中で立ち上がって、・・・・・彼方では徐々に焔が消えていった。ただひろい城中の二三の窓のみが、なおもかがやいていたが、やがてそれらの火も、ネカー河にうつっていた最後の倒影も消えてしまった。
    ボートは夜の静寂の中をすべっていった。カル・ハインリッヒとケーティーはぴったりと身をすりよせて黙って坐っていた。

  • カル・ハインリッヒとケーティーは沈黙したままいだきあっていたが、敬虔な感激のうちに、これまでになく幸福な気がした。彼らはもう唇もかわさず、ただぴったりと抱きあっていた。ケーティーはまるで夢ごこちに、遠くドーナウ河のほとりで子供のときおぼえた古いボヘミアの民謡を口ずさんだ。<br /><br />(独逸薬学博物館)

    カル・ハインリッヒとケーティーは沈黙したままいだきあっていたが、敬虔な感激のうちに、これまでになく幸福な気がした。彼らはもう唇もかわさず、ただぴったりと抱きあっていた。ケーティーはまるで夢ごこちに、遠くドーナウ河のほとりで子供のときおぼえた古いボヘミアの民謡を口ずさんだ。

    (独逸薬学博物館)

  • 「殿下、カルスブルクから至急電報が到着いたしました」・・・・・・・・・・・・<br />「公子殿下に対し、大公殿下が御重体でわたらせられることを御報告申上げると共に、相成るべく速やかに暫時カルスブルクに御帰國あそばせるよう懇願いたします」<br />

    「殿下、カルスブルクから至急電報が到着いたしました」・・・・・・・・・・・・
    「公子殿下に対し、大公殿下が御重体でわたらせられることを御報告申上げると共に、相成るべく速やかに暫時カルスブルクに御帰國あそばせるよう懇願いたします」

  • 「君はどう思う、ケーティー」と彼は訪ねた。「もし僕がもどってこなかったら」<br />彼女はびっくりして彼の顔をみた「もどってこないって」「そうもどってこなかったら」「でもそんなことはないんでしょう」彼女の頬からさっと血の気がうせた。「でもきっともどってしゃるわね」・・・・・・・・・・・・・・・・・・<br />「かりに、僕がもどってこないとしたら、君はどうするの」彼女の唇はふるえた。何かいおうとしたが、言葉がでないのである。彼女は立ち上がって、二三歩近づき、両腕を彼の頚にまきつけた。<br />

    「君はどう思う、ケーティー」と彼は訪ねた。「もし僕がもどってこなかったら」
    彼女はびっくりして彼の顔をみた「もどってこないって」「そうもどってこなかったら」「でもそんなことはないんでしょう」彼女の頬からさっと血の気がうせた。「でもきっともどってしゃるわね」・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    「かりに、僕がもどってこないとしたら、君はどうするの」彼女の唇はふるえた。何かいおうとしたが、言葉がでないのである。彼女は立ち上がって、二三歩近づき、両腕を彼の頚にまきつけた。

  • 彼の書卓にはハイデルベルクの青い學生帽と、三色の絹のバンドと、それから三輪の、かわいたバラの花がいれてあった。  それらはあの時代唯一の思い出であったのである。<br />ハイデルベルク。彼はそう思っただけで、もう胸に真鍮のしめがねをはめられて、息がつまりそうになるのである。<br /><br />公子の書卓のうえには、金色の額縁の中に、彼の従妹の若きザクセンの公女の肖像がおかれてあった。彼女とハインリッヒとの結婚を成立させることは、この数ヶ月間、死に瀕した大公の最後のこころずかいであったのである。・・・・・・・・・・・・・・・<br />大公の遺骸は、マリーエンブルクの古い霊廟に、最後の安息のため納められた。そしてカル・ハインリッヒはカルスブルクの城主となった。

    彼の書卓にはハイデルベルクの青い學生帽と、三色の絹のバンドと、それから三輪の、かわいたバラの花がいれてあった。  それらはあの時代唯一の思い出であったのである。
    ハイデルベルク。彼はそう思っただけで、もう胸に真鍮のしめがねをはめられて、息がつまりそうになるのである。

    公子の書卓のうえには、金色の額縁の中に、彼の従妹の若きザクセンの公女の肖像がおかれてあった。彼女とハインリッヒとの結婚を成立させることは、この数ヶ月間、死に瀕した大公の最後のこころずかいであったのである。・・・・・・・・・・・・・・・
    大公の遺骸は、マリーエンブルクの古い霊廟に、最後の安息のため納められた。そしてカル・ハインリッヒはカルスブルクの城主となった。

  • 「ケーティーはどうした」「ケーティー?」「あの、リューダーの家にいる」「ああ、あの子はですか。はいあの子はまだあそこにおります」「リューダーのうちにか」「はい、リューダーのうちに」「そしてそして達者にしているか」「はい、とても達者でございまう」「ではあそこにいるんだね」 前とおなじように」。リューダーのうつに行けば、そしたら そしたら会えるんだね」「もちろんでございます」<br /><br />こうしてカル・ハインリッヒはも一度ハイデルベルクへ向かって旅をした。それは二年前と同じように五月の日であった。同じ村々や、水車や、畑や街々が窓外をとんでいった。レーン山脈は彼方に青がすみ、列車は、はるか彼方の南ドイツであった。<br /><br />(Elisabethentor:エリザベス門)

    「ケーティーはどうした」「ケーティー?」「あの、リューダーの家にいる」「ああ、あの子はですか。はいあの子はまだあそこにおります」「リューダーのうちにか」「はい、リューダーのうちに」「そしてそして達者にしているか」「はい、とても達者でございまう」「ではあそこにいるんだね」 前とおなじように」。リューダーのうつに行けば、そしたら そしたら会えるんだね」「もちろんでございます」

    こうしてカル・ハインリッヒはも一度ハイデルベルクへ向かって旅をした。それは二年前と同じように五月の日であった。同じ村々や、水車や、畑や街々が窓外をとんでいった。レーン山脈は彼方に青がすみ、列車は、はるか彼方の南ドイツであった。

    (Elisabethentor:エリザベス門)

  • 「大公は船べりにもたれて坐ったまま、流れる水に片手えおひたしていた。ネカー河は先週来の大雨で水かさをましていたので、舟はまっしぐらにハイデルベルクの方へすべっていった。右側の岸には、すでに遠くから、色々な提灯に明るくてらされた岸壁が見えてきた。「あ、リューダーの酒場が見えてきました」<br /><br />(Gorotte:庭園の人工の洞窟)

    「大公は船べりにもたれて坐ったまま、流れる水に片手えおひたしていた。ネカー河は先週来の大雨で水かさをましていたので、舟はまっしぐらにハイデルベルクの方へすべっていった。右側の岸には、すでに遠くから、色々な提灯に明るくてらされた岸壁が見えてきた。「あ、リューダーの酒場が見えてきました」

    (Gorotte:庭園の人工の洞窟)

  • 「あら ザクセン團だは。あなた方は、きっとまたいらっしゃって下すたのね」・・・・<br />「あなたがたは意地悪だわね。だって、ちっともいらっしゃってくださらないんだもの」<br />そのとき 彼女は。大きく目をあけて、凝視した。そして、一歩たじろいだ。まるで幽霊がネカー河の暗闇から彼女の前に現れたかのに、それから急に、すべてをつんざくような鋭い叫び声をあげた。「カル・ハインリッヒ」 あたりはしんとひそまりかえって。だれも一言も話さなかった。・・・・・・・・・・「あなただは。あなただは。あなただは」彼女は彼にしがみついた。そしてまじかくからの顔のところにまで伸び上がらんばかりに、自分の身体をおしつけた。<br />

    「あら ザクセン團だは。あなた方は、きっとまたいらっしゃって下すたのね」・・・・
    「あなたがたは意地悪だわね。だって、ちっともいらっしゃってくださらないんだもの」
    そのとき 彼女は。大きく目をあけて、凝視した。そして、一歩たじろいだ。まるで幽霊がネカー河の暗闇から彼女の前に現れたかのに、それから急に、すべてをつんざくような鋭い叫び声をあげた。「カル・ハインリッヒ」 あたりはしんとひそまりかえって。だれも一言も話さなかった。・・・・・・・・・・「あなただは。あなただは。あなただは」彼女は彼にしがみついた。そしてまじかくからの顔のところにまで伸び上がらんばかりに、自分の身体をおしつけた。

  • <br />「かわいいケーティー」 カル・ハインリッヒは彼女の肩に腕をまいて。彼女とならんで、河岸の古い二本の菩提樹のかげにもたれていた。・・・・・・・・・・・・・・・<br />カル・ハインリッヒと彼女は、永遠の別れをつげるために、も一度出会った二人のように、じっと、抱きあっていた。・・・・・・・・彼が結婚式を、ごく近くあげるだろうということは、彼女は新聞でしっていた。<br />


    「かわいいケーティー」 カル・ハインリッヒは彼女の肩に腕をまいて。彼女とならんで、河岸の古い二本の菩提樹のかげにもたれていた。・・・・・・・・・・・・・・・
    カル・ハインリッヒと彼女は、永遠の別れをつげるために、も一度出会った二人のように、じっと、抱きあっていた。・・・・・・・・彼が結婚式を、ごく近くあげるだろうということは、彼女は新聞でしっていた。

  • 「で、君はどうするの、ケーティー」「あたしはオーストリアへ帰るわ、カル・ハインツ。フランツエルが三月目ごとに手紙をよこすのよ。もう結婚したいから、ぜひ帰ってこいった」<br />「僕たちは一生おぼえていようね。僕は君を忘れない、そして君も僕を忘れない。僕たちはもう二度と会えないんだ。でも二人はいつまでも忘れないだろう。僕は君を忘れないよ。ケーティー、けっして、けっして、けっして」・・・・・・・・<br />時間はすぎていった。とうとう一番鶏が暁をつげ、灰色の朝の陰が河面をすべっていった。手をとりあって彼らが庭から淋しい街道へ出た。なおも百歩ばかりケーティーは、道標のところをとうりこした、町の公園の始まるところまで彼を送った。そこで彼らは立ち止まって、最後に抱擁した。「ケーティー!」「ハインツ!」・・・・・・・・・・<br />それは日曜日の朝であった。(完)<br /><br />(ゲーテもここを訪れている)

    「で、君はどうするの、ケーティー」「あたしはオーストリアへ帰るわ、カル・ハインツ。フランツエルが三月目ごとに手紙をよこすのよ。もう結婚したいから、ぜひ帰ってこいった」
    「僕たちは一生おぼえていようね。僕は君を忘れない、そして君も僕を忘れない。僕たちはもう二度と会えないんだ。でも二人はいつまでも忘れないだろう。僕は君を忘れないよ。ケーティー、けっして、けっして、けっして」・・・・・・・・
    時間はすぎていった。とうとう一番鶏が暁をつげ、灰色の朝の陰が河面をすべっていった。手をとりあって彼らが庭から淋しい街道へ出た。なおも百歩ばかりケーティーは、道標のところをとうりこした、町の公園の始まるところまで彼を送った。そこで彼らは立ち止まって、最後に抱擁した。「ケーティー!」「ハインツ!」・・・・・・・・・・
    それは日曜日の朝であった。(完)

    (ゲーテもここを訪れている)

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