2017/06/12 - 2017/06/12
50位(同エリア491件中)
玄白さん
義母が入所している伊豆の老人ホームへ面会のために出掛けた。少し時間があるので、伊東市の城ヶ崎海岸に立ち寄ってみた。梅雨明けしたら伊豆の海岸で天の川の撮影をしたいと思っていて、そのロケハンのためである。城ケ崎海岸は、大室山から流れ出た溶岩が作り上げた台地が相模湾の波で浸食された荒々しい絶壁の溶岩岩石海岸が連なる景勝地なのだが、この時期にはその絶壁に自生しているガクアジサイが満開を迎えている。
思いがけず、荒波打ち寄せる溶岩海岸に健気に咲くアジサイを見ることができて、華やかな園芸種のアジサイとは一味違った自然の美しさに触れたひとときであった。植物オンチの玄白ではあるが、ネットで調べたアジサイに関するトリビアを書き連ねつつ、城ケ崎海岸を紹介したい。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 交通手段
- 自家用車
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城ケ崎海岸は、伊豆海洋公園を基点に、北へは富戸港に通じるピクニカルコース、南方面へは八幡野港方面に行く自然研究路というハイキングコースがあり併せて全長9kmほどの散策が楽しめるところである。ほとんど全コースが、海岸に沿ったコースである。
今回は老人ホーム訪問が主目的なので、そんなにハイキングを楽しんでいる時間はない。軽くピクニカルコースを門脇灯台まで往復してみることにしよう。 -
ここに来るまで知らなかったのだが、このコースの至るところにガクアジサイが自生しており、ちょうど満開の見頃を迎えていた。あじさい祭りというイベント開催中である。
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城ケ崎海岸に自生しているアジサイはすべて日本固有のガクアジサイの原種である。公園や寺社で見かけるぼんぼり状の華やかな西洋アジサイはない。
西洋アジサイは、江戸時代、オランダ東インド会社の医師だったドイツ人シーボルトが、ガクアジサイを持ち帰り品種改良したものである。品種改良された西洋アジサイに、シーボルトは「Hydrangea Macrophylla var. otaksa」という学名を付けたという。このotaksaというのは、シーボルトの日本人妻だった楠本滝、通称お滝さんに由来するという。バラやランの品種の愛称に女性の名前を付けることは珍しくないが、花の学名に女性、しかも自分の愛妾の名前を使ったのは珍しいケースだという。だが、現代では、西洋アジサイの学名のotaksaは廃止されている。詳しくは分からないが植物分類学上のルールから、この命名には一悶着あったらしい。 -
イチオシ
アジサイを日本語漢字表記で「紫陽花」と書くことを知らない人はいないだろう。この漢字表記の起源は、唐の詩人、白居易(白楽天)の詩「紫陽花」だという。白居易は、この詩で
何年植向仙壇上 (何れの年にか植えて仙壇の上に向う)
早晩移栽到梵家 (早晩移栽して梵家に到る)
雖在人間人不識 (人間に在るといえども人識らず)
与君名作紫陽花 (君がため名づけて“紫陽花”となさむ)
と詠んでいる。
(http://h49yokai.fc2-rentalserver.com/halimao_diary/09.07.14.htmより)
この詩から平安時代の源順という学者が、この詩はアジサイを詠んだものだと推測して、アジサイに「紫陽花」を当てたそうだ。だが、白居易が詠んだ紫陽花はアジサイではなく、ライラックのことではないかというのが定説になっている。 -
アジサイは美しい花であるが、意外と歴史上の文学作品、芸術に登場する頻度は少ない。梅や桜に比べるべくもない。最も古いのは万葉集にある。
「紫陽花の 八重咲く如く弥(や)つ代にを 居ませ我が背子 見つつ偲ばむ」
作者は、奈良時代前期の政治家、橘諸兄(たちばなのもろえ)である。歌は一見、相聞歌のようだが、当時の政界で藤原氏との権力闘争の最中であり、反藤原勢力の繁栄を願ったものという解釈もあるようだ。この歌は、八重咲くという言葉から古代日本にも西洋アジサイ風のアジサイがあったのではないかという、シーボルト西洋アジサイ説を覆す説の根拠にもなっているが、果たして真実は如何? -
ともかく、アジサイは日本的な美しい花であるが、文学・芸術ではどちらかというと冷たい扱いをされている花である。花の色が移り変わることから、移り気、浮気など否定的な花言葉があるように、近代以前の日本人の価値観にそぐわなかったからかもしれない。
人気の花となったのは、戦後各地に境内にアジサイを植えたアジサイ寺が登場してからのことだという。 -
いささか尾籠な話ではあるが、アジサイ研究家の山本武臣さんによるとアジサイの別名でシモクサというのがあるという。ある地方では、用を足した後で尻を拭くのにアジサイの葉を使っていたからだという。さすがに現代ではそんなことはないだろうが・・・
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花の色は、土壌のpHによって青になったり、赤になったりするというのは、よく知られている。酸性土壌では青、中性、アルカリ性土壌では赤くなる。これは、花の色素であるアントシアニンの、土中のアルミニウムイオンとの結びつきの多寡によるものだという。すなわち、酸性土では、土中のアルミニウムがイオン化して根から吸収されて、アントシアニンと結合して青くなるが、アルカリ性ではアルミニウムがイオン化しないので、花の色の成分アントシアニン本来の色になるというのである。
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ピクニカルコースの海沿いの遊歩道を歩いて行くと、つなきり、ひら根、しんのり、びしゃご、穴口など変わった名前の小さな岬が次から次へと現れる。写真はひら根からの海岸の眺め。
靄っぽいが、伊豆大島が良く見えている。 -
断崖絶壁の海岸線がどこまでも続いている。
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びしゃごという小さい岬からの眺め。松の木の奥に門脇崎灯台が見えてきた。
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「びしゃご」岬の道標
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このあたりの歩道には、ホタルブクロが咲いていた。
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穴口という小岬
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ここには、垂直に開いた海蝕洞がある。30~40m下の海岸のゴロタ石が真下に見える。
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この辺りには、常緑高木のヒメユズリハの群生も見られる。 春、新葉が出ると古葉が落葉する様子が、席を譲るように見えることから命名されたそうだ。
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イチオシ
垂直に切り立った溶岩岩壁に自生するガクアジサイ。園芸用に品種改良された西洋アジサイにはない、逞しさが感じられる。
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元々、日本原産のガクアジサイは、こういう海岸に自生していることが多い。ここだけでなく、房総半島、三浦半島、伊豆七島、足摺岬などでも見られるという。
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穴口の波打ち際から見た「ならいかけ」という小岬。門脇埼灯台もだんだん大きく見えるようになってきた。
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門脇埼灯台の前には、ここが富士箱根伊豆国立公園の一部であることを示す碑が立っている。
門脇埼灯台は昭和35年に建てられた灯台だが、平成7年に展望台付の灯台として改築されている。展望台には無料で自由に上ることができる。 -
半四郎落としという岩壁と門脇岬の間にかけられた門脇吊り橋。全長48m、海面からの高さ23mで、橋の上からの海岸の眺めは迫力がある。
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イチオシ
吊り橋からの眺め。「かどかけ」という溶岩が流れ出たことで作られた小さな岬。海に突き出た巨大な龍のように見えなくもない。透明度が高い海のブルーがとてもきれいだ。
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長い時間をかけて波によってえぐられた崖の上に吊り橋が架けられている。崖の上部にはびっしりとガクアジサイが自生している。
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かどかけから眺めた門脇吊り橋。観光客が少ないタイミングで撮影したが、大勢の観光客でにぎわっている。
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岩場のほとんど土がないところに、こんな黄色の花が咲いている。
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吊り橋を背景にして。
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吊り橋の下に潜り込んでみた。道はないが、とくに危険なことはなく、岩伝いに降りて橋の下に行ける。
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門脇埼灯台の展望台に上がってみた。金網が撮影のじゃまだが、かまわず数枚写真を撮った。
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展望台に上がると、城ケ崎海岸を作った溶岩を噴出させた大室山が見える。擂鉢をふせたような美しい山容のコニーデ型火山である。大噴火により、城ヶ崎海岸の溶岩台地が形作られたのは4000年前のことだという。
標高580mほどの低山だが、徒歩での登山は禁止されていて、ペアリフトでのみ頂上にいくことができるそうだ。毎年2月に山焼きが行われるので、山全体が一年草だけで覆われて美しい山容が保たれている。 -
イチオシ
展望台より城ケ崎海岸を俯瞰。
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門脇岬を見下ろす
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海洋公園駐車場に、林間の遊歩道を通って戻る。時間があれば、ここから南下して城ケ崎自然研究路をも歩いてみたかったのであるが、これから義母の待つ老人ホームに行かなくてはならないので時間がない。一か所だけ、どうしてもロケハンしておきたいところがあったので車で移動。
橋立吊り橋駐車場に移動し、そこから自然研究路の橋立つり橋に向かう。 -
よく整備された歩道を海岸に向かって600mほど歩いて行くと・・・
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イチオシ
こんな風景が目の前に現れる。ピクニカルコースとよく似た風景なのだが、写真右下が、海に注ぐ滝になっているのである。対馬(たじま)の滝という。この滝を作っている対馬川は、水量が少なく大雨が降った直後でないと見られない幻の滝である。
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対馬の滝を見る観瀑台が最近設置された。
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ここにもホタルブクロが咲いていた。この付近にはガクアジサイの自生地はなさそうだ。
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対馬の滝から自然研究路を10分ほど南に歩くと大淀小淀という岩場が見えてくる。自然の岩を利用した階段を使って岩場に降りることができる。天然の汐だまりがあって、これが大淀小淀という名前の由来になっている。
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この岩場は溶岩が急冷してできる柱状節理の頭の部分が露出しているところで、地質に興味がある人にとっては面白い場所である。
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大淀小淀からちょっと先に行くと城ヶ崎海岸のもう一つの吊り橋「橋立吊り橋」が見えてくる。門脇吊り橋は大勢の観光客でにぎわっていたが、こちらはあまり人はおらず、とても静かである。海からの高さは18mで門脇吊り橋より低いが長さは60mあり、門脇吊り橋より長い。しかも、吊り橋らしく、よく揺れる。
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吊り橋からの眺め。
左側に沖ノ島という岩礁が見えている。遠くてよく分からないが、この岩礁も見事な柱状節理になっているという。 -
これにてロケハン終了。門脇岬や、対馬の滝、大淀小淀が星景写真撮影ポイントとして良さそうだ。
また、思いがけず絶壁に咲くガクアジサイ原種の花を見ることができたのもよかった。ロケハンだけでは旅行記にはならなかったと思う。
老人ホームへ向かう。 終わり
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