なぜ旅に出るんだろう？　ましてやフィリピンの山岳地帯なんかへ（その１６） ボコス村と滝探し

2017/05/20 - 2017/05/20

　朝になっても、雨は降り続いていた。
　「今日は、どうするの？」
　とオーナーのおばさんが聞く。
　「ボコス村に行きたいんだけど・・・」
　そう言うと、
　「今日は土曜日だから、隣の広場には市ができて、野菜や果物が安く買えるから、早く帰っておいで。」
　と言う。
　そういえば、小雨が降っているのに、外は朝から活気がある。

エリア ルソン島(フィリピン)

• 同行者: 一人旅
• 交通手段: 徒歩

　雨が止んだ。
　ナップを背負い、ステッキを持って外に出た。
　宿の前の坂道を下りていく。
　この方向には歩くのは初めてだ。

　道路をはさんで両側に学校があった。
　歩道橋でつながっている。
　土曜日なので声もしない。

　道路はぐるりとＵターンし、ミッションスクールを通り過ぎた脇に、細い路地があった。
　マップでは、ボコス村はこの先となっている。

　曲がりくねった路地を進み、坂道を登るとここにも学校があった。
　大きなグランドを持つ小学校のようだ。

　さらに石段を登っていく。
　すれ違いもままならない細い石段が続く。

　石段は民家と民家の隙間に通じている。
　タムアン村でもそうだったが、ここにも公道はなく、個人の敷地がはっきりしない。
　土地台帳や登記簿などというものは、初めからないのかも知れない。

　広場に出た。

　民家の壁には巨大な水牛の頭蓋骨が張り付いている。
　彫り物ではなく、本物だ。

　「ボコス村は、ここを通って行けばいいの？」
　座り込んでいるおじさんに聞くと、
　「ここが、ボコス村だ！」

　「ええっ！」
　ここが、そうなの・・・
　ものの１０分もかからずに、ボコス村に来てしまったことになる。
　幹線道路から入って、数分だ。

　予想外のことに呆然となり、周囲を見回す。
　チェスで遊んでいる男たらがいる。
　ぶらぶら遊んでいる女の子がいる。

　イヌの子どもたちがいる。

　「山の奥に、ウォーターフォールがあるぞ！」
　座っていたおじさんが教えてくれる。
　「見て来るといい！」

　おじさんの指差す家の裏を通り抜け、丘を越えていくと、棚田が広がっていた。

　棚田を挟んだ山の中腹に、一列に並ぶ家屋が見える。
　あれはどこだろう？
　方向感覚が麻痺して分らなかったが、ボントックへ続く道筋だと気づいたのは、後日のことだった。
　西方向を見ていたのだ。

　狭い石段が、右へ左へ曲がりくねっている。
　雑草の茂る泥道となったり、再び石段になったりしていて、周囲を観察する余裕がない。
　自分の位置が分らなくなっていく。

　正確に言えば、迷子になっている。
　しかし進む道は一本。
　帰りの心配をする必要はない。

　これはまるで平均台。
　失敗すれば２～３m下の田んぼの中だ。
　死ぬことはないだろうが、足をくじいたり、落ちようでは骨折もあるだろう。
　しばし佇んでいたが、意を決してそろそろと、慎重に慎重に足を進めた。

　どうにかこうにか難関を突破すると、谷間の奥に滝が見えてきた。
　あれかな？

　近くで見れば、たいした滝ではない。　

　周囲を見まわせば、あちこちに小さな滝がある。
　自然のものではなく、下の段に水を落とす、棚田の水利設備だ。
　この辺りで引き返そうか・・・
　でも、おじさんの言ったウォーターフォールは、これではないかも知れない。
　いつも中途半端な場所で引き返し、後で後悔している。

　思い悩んでいる、子どもが現れた。

　山からも、女の子たちも降りてくる。
　この先に集落があるようだ。
　子どもたちに聞くと、
　「滝は、あっちの山の上だよ。」と教えてくれた。
　やはり、そうだった。

　歩く、歩く、歩く。
　家並みがどんどん遠くなっていく。

　目指す山に滝が見えた。
　上下に分かれた、２つの滝だ。
　でも、それほど雄大ではない。

　茂みの中から親子が現れた。
　町に出かけるような姿をしている。
　「滝？　ここじゃなくて、あの山を越えた、向こう側だよ・・」
　まだまだ先らしい。
　どこまで進めば良いのか、不安になってくる。

　意地でも、ここで引き返す訳にはいかない。
　親子が現れた茂みの中を進んでいくと、集落があった。

　子どもが遊んでいる。
　持っていた飴玉を一緒にほおばり、少し元気を取り戻した。

　集落を通過し、峠を越えていく。
　ゴリラとターザンでも出てきそうな、ジメジメしたジャングルだ。

　おおっ！
　かなたから水の落ちる音が・・・
　目を凝らせば、１本の水の線が見える。

　近づいて行くと１本ではなく２本だったが、これまで見てきた滝よりも規模が大きい。

　真下で見ると、高さもある。
　これに違いない。
　諦めて帰らないで良かった・・・と深呼吸。
　感動するほど雄大ではないが、目的を達した喜びは大きい。

　遥か彼方に町が見えた。
　ここはどこなんだろう？
　GPSで確かめる。
　山の中とは分るが、目印もなく、理解困難。
　Gマップからも忘れられた、名もない山の中だ。

　女性が一人、近づいてきた。
　田植えの手伝いに出掛ける途中だと言うが、しばらく話し相手になってくれた。
　こんな寂しい場所での出会いほど嬉しいものはなく、やはりここに来て良かったと思うのだった。

　滝の音に酔い、水しぶきを楽しみ、山の香りを浴び、それにも飽きて、もと来た道を戻ることにした。
　先ほどの集落の様子がどうも変わっている。
　ここを通った気もするが、違う気もしてくる。
　子ども以外に人の姿はなかったのに、大人がいる。

　「町はここを降りて行けば良い・・」と言われて安心するが、こんなおばさんも、先ほどはいなかったはず・・・

　「何か、おくれよ・・・」
　そんな表情の、馴れ馴れしい子どもが出てきた。
　子どもの姿まで変わっている。

　下の景色も違っているな気がするが、気のせいか？

　集落の下に向かって下っていくと、、、

　学校があった。
　どこを、どう間違ったのか、これは来た道ではない。
　キツネに化かされいるのか？