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クアラルンプール滞在中の週末、初めてオーストラリアに入国し最大都市であるシドニーを訪れた。オーストラリアという国、仕事でも観光でもこれまで訪れる機会がなかった。面積は日本の21倍、人口は約2400万人と5分の1、国土の大半は砂漠で大都市は海岸沿いに点在している。マーケット自体が小さいことと、効率的なビジネスが難しいお国柄であることもあり、オーストラリアから撤退する企業が後を絶たないと聞く。また白豪主義で知られる白人優先、非白人排除政策(イギリス系白人が92%)などネガティヴな印象が多い国であるが、一方で風光明媚な地形、カンガルーやコアラなど独特の生態系、そして何と言っても最も若い建築物で世界遺産に登録されたオペラハウス、まずはここを訪れることにした。<br /><br />シドニーオペラハウスという名称で世界遺産に登録されているが、正確にはコンサートホール(約2,700席)、オペラ劇場(ジョーン・サザーランド劇場、約1,500席)に加え、ドラマシアター(544席)、プレイハウス(398席)、スタジオシアター(364席)を備えた巨大な複合建築である。意外なことにオペラ劇場は小振りで、コンサートホールが圧倒的なキャパシティを持ち、シドニー交響楽団の本拠地である。今回オペラ劇場ではバレエ「くるみ割り人形」、コンサートホールではシドニー響の演奏で「悲愴交響曲」などを聴くことができた。公演に先立ってコンサートホールのツアーに参加し、現物を見ながらその建設の歴史を聞くことができた。<br /><br />オペラハウスの建設については書くべきことが多すぎて、とてもこのスペースには書ききらないので、備忘録がわりにポイントのみ書き留めておく。まずは1954年、設計コンペが行われ233件の応募があり、デンマークの建築家、ヨーン・ウツソンの、帆や貝殻をイメージしたデザイン案が選ばれた。1959年3月に着工、工費は700万米ドル、完成は1963年を予定していた。しかし実際には完成は1973年と10年遅れ、また総工費は1億200万米ドルに達し当初予定の14倍以上になった。ウツソンは1966年にオペラハウスの設計者を辞任、シドニーを去り帰国、二度とオーストラリアに戻ることはなかった。<br /><br />この大幅な遅れにはウツソンのスケッチが構造設計を考慮していなかったことも原因であった。特に帆のようなシェルは放物線の断面を想定していたが、これは構造上成り立たず、最終的にはシェルをすべて同じ半径の曲面から構成させることで施工が可能となった。ウツソンが去った後、基本設計のほとんどが修正された。大ホールは多目的ホールとする予定だったがコンサート専用ホールに変更、演劇専用の予定だった小ホールはオペラが上演可能な劇場となった。このあたりは政治的な圧力でややアンバランスな構成となったことは否めない。なおコンサートホールは、一昨年ここに招かれたサイモン・ラットルの音響的なアドヴァイスもあって来シーズンから全面的な改修工事に入るという。<br /><br />オペラハウスの見学ツアーを終えた後、参加者は公演のチケットが半額になるという特典があるとのことで、当初予定していなかったこの晩のオペラ劇場での「くるみ割り人形」を見ることにした。劇場はほぼ満席、ロシアを去ったクララがオーストラリアに移住し波乱の人生を終える、という若干政治的メッセージを加えた興味深いストーリーであった。音響的、視覚的には際立ったところはなく、可もなし不可もなしであった。<br /><br />そしてあらかじめ予約しておいた翌日のコンサートでは、ラトヴィア出身の若手アンドリス・ポーガの指揮で「悲愴交響曲」、リエンツィ序曲、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲を聴いた。オーケストラの実力は機能的には第一級でアメリカのオケに近い、明るめの音色と感じた。昨年まではアシュケナージが、昨シーズンからはアメリカ人のロバートソンが首席指揮者である。コンサートホールの音響はベルリンのフィルハーモニーホールに近い。ベルリンを超える2,700席という巨大な空間の中、吊り音響板で何とかバランスを保っている、という感じがした。同じプロで4回のコンサート、しかもほとんどが満席であるという恵まれた環境にあるオケである。この巨大ホールが音響改修工事でどのように変貌するのか興味深い。<br />

オーストラリアの世界遺産No.1:シドニーオペラハウスでシドニー響「悲愴交響曲」を聴きバレエ「くるみ割り人形」を観る

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2017/05/10 - 2017/05/13

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ハンク

ハンクさん

クアラルンプール滞在中の週末、初めてオーストラリアに入国し最大都市であるシドニーを訪れた。オーストラリアという国、仕事でも観光でもこれまで訪れる機会がなかった。面積は日本の21倍、人口は約2400万人と5分の1、国土の大半は砂漠で大都市は海岸沿いに点在している。マーケット自体が小さいことと、効率的なビジネスが難しいお国柄であることもあり、オーストラリアから撤退する企業が後を絶たないと聞く。また白豪主義で知られる白人優先、非白人排除政策(イギリス系白人が92%)などネガティヴな印象が多い国であるが、一方で風光明媚な地形、カンガルーやコアラなど独特の生態系、そして何と言っても最も若い建築物で世界遺産に登録されたオペラハウス、まずはここを訪れることにした。

シドニーオペラハウスという名称で世界遺産に登録されているが、正確にはコンサートホール(約2,700席)、オペラ劇場(ジョーン・サザーランド劇場、約1,500席)に加え、ドラマシアター(544席)、プレイハウス(398席)、スタジオシアター(364席)を備えた巨大な複合建築である。意外なことにオペラ劇場は小振りで、コンサートホールが圧倒的なキャパシティを持ち、シドニー交響楽団の本拠地である。今回オペラ劇場ではバレエ「くるみ割り人形」、コンサートホールではシドニー響の演奏で「悲愴交響曲」などを聴くことができた。公演に先立ってコンサートホールのツアーに参加し、現物を見ながらその建設の歴史を聞くことができた。

オペラハウスの建設については書くべきことが多すぎて、とてもこのスペースには書ききらないので、備忘録がわりにポイントのみ書き留めておく。まずは1954年、設計コンペが行われ233件の応募があり、デンマークの建築家、ヨーン・ウツソンの、帆や貝殻をイメージしたデザイン案が選ばれた。1959年3月に着工、工費は700万米ドル、完成は1963年を予定していた。しかし実際には完成は1973年と10年遅れ、また総工費は1億200万米ドルに達し当初予定の14倍以上になった。ウツソンは1966年にオペラハウスの設計者を辞任、シドニーを去り帰国、二度とオーストラリアに戻ることはなかった。

この大幅な遅れにはウツソンのスケッチが構造設計を考慮していなかったことも原因であった。特に帆のようなシェルは放物線の断面を想定していたが、これは構造上成り立たず、最終的にはシェルをすべて同じ半径の曲面から構成させることで施工が可能となった。ウツソンが去った後、基本設計のほとんどが修正された。大ホールは多目的ホールとする予定だったがコンサート専用ホールに変更、演劇専用の予定だった小ホールはオペラが上演可能な劇場となった。このあたりは政治的な圧力でややアンバランスな構成となったことは否めない。なおコンサートホールは、一昨年ここに招かれたサイモン・ラットルの音響的なアドヴァイスもあって来シーズンから全面的な改修工事に入るという。

オペラハウスの見学ツアーを終えた後、参加者は公演のチケットが半額になるという特典があるとのことで、当初予定していなかったこの晩のオペラ劇場での「くるみ割り人形」を見ることにした。劇場はほぼ満席、ロシアを去ったクララがオーストラリアに移住し波乱の人生を終える、という若干政治的メッセージを加えた興味深いストーリーであった。音響的、視覚的には際立ったところはなく、可もなし不可もなしであった。

そしてあらかじめ予約しておいた翌日のコンサートでは、ラトヴィア出身の若手アンドリス・ポーガの指揮で「悲愴交響曲」、リエンツィ序曲、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲を聴いた。オーケストラの実力は機能的には第一級でアメリカのオケに近い、明るめの音色と感じた。昨年まではアシュケナージが、昨シーズンからはアメリカ人のロバートソンが首席指揮者である。コンサートホールの音響はベルリンのフィルハーモニーホールに近い。ベルリンを超える2,700席という巨大な空間の中、吊り音響板で何とかバランスを保っている、という感じがした。同じプロで4回のコンサート、しかもほとんどが満席であるという恵まれた環境にあるオケである。この巨大ホールが音響改修工事でどのように変貌するのか興味深い。

旅行の満足度
5.0
観光
5.0
ホテル
4.0
グルメ
4.0
交通
4.0
同行者
一人旅
一人あたり費用
5万円 - 10万円
交通手段
鉄道 高速・路線バス 徒歩 飛行機
旅行の手配内容
個別手配

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  • シドニーのシンボル、オペラハウス

    シドニーのシンボル、オペラハウス

  • オペラハウスの近景

    オペラハウスの近景

  • ハーバーブリッジとはカメラに収まらない

    ハーバーブリッジとはカメラに収まらない

  • 左側の建物はレストランなど

    左側の建物はレストランなど

  • 中央がコンサートホール、右側がオペラ劇場

    中央がコンサートホール、右側がオペラ劇場

  • コンサートホールとオペラ劇場

    コンサートホールとオペラ劇場

  • 完全な球形をなすシェル

    完全な球形をなすシェル

  • 完全な球形をなすシェル

    完全な球形をなすシェル

  • 施工の難しいことを思わせる

    施工の難しいことを思わせる

  • シドニーオペラハウス建設の立役者、ニューサウスウェールズ州首相ジョゼフ・カール

    シドニーオペラハウス建設の立役者、ニューサウスウェールズ州首相ジョゼフ・カール

  • 設計者ウツソンの球から切り取ったイメージのシェル

    設計者ウツソンの球から切り取ったイメージのシェル

  • コンサートホールの内部

    コンサートホールの内部

  • コンサートホールの内部、シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

    コンサートホールの内部、シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

  • シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

    シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

  • シェルを支える構造と独立したガラス

    シェルを支える構造と独立したガラス

  • シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

    シェルを支えるプレキャストのコンクリート構造

  • コンクリートホールの内部、ハーバーブリッジを眺める

    コンクリートホールの内部、ハーバーブリッジを眺める

  • オペラハウスの夜景

    オペラハウスの夜景

  • ハーバーブリッジの夜景

    ハーバーブリッジの夜景

  • オペラ劇場のロビー

    オペラ劇場のロビー

  • オペラ劇場の内部

    オペラ劇場の内部

  • オペラ劇場のステージ

    オペラ劇場のステージ

  • くるみ割り人形のカーテンコール

    くるみ割り人形のカーテンコール

  • くるみ割り人形のカーテンコール

    くるみ割り人形のカーテンコール

  • 指揮者が最後に呼ばれオーケストラを讃える

    指揮者が最後に呼ばれオーケストラを讃える

  • 海から見たオペラハウスの夜景

    海から見たオペラハウスの夜景

  • ハーバーブリッジを背景に公演後にバーでくつろぐ人々

    ハーバーブリッジを背景に公演後にバーでくつろぐ人々

  • コンサート前のレクチャー会場

    コンサート前のレクチャー会場

  • コンサートホールの音響はベルリンのフィルハーモニーホールに近い。2,700席という巨大な空間の中、吊り音響板で何とかバランスを保っている<br />

    コンサートホールの音響はベルリンのフィルハーモニーホールに近い。2,700席という巨大な空間の中、吊り音響板で何とかバランスを保っている

  • オーケストラの実力は機能的には第一級でアメリカのオケに近い、明るめの音色と感じた<br />

    オーケストラの実力は機能的には第一級でアメリカのオケに近い、明るめの音色と感じた

  • 同じプロで4回のコンサート、しかもほとんどが満席であるという恵まれた環境にあるオケである

    同じプロで4回のコンサート、しかもほとんどが満席であるという恵まれた環境にあるオケである

  • ラトヴィア出身の若手アンドリス・ポーガ、昨年まではアシュケナージが、昨シーズンからはアメリカ人のロバートソンが首席指揮者

    ラトヴィア出身の若手アンドリス・ポーガ、昨年まではアシュケナージが、昨シーズンからはアメリカ人のロバートソンが首席指揮者

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  • 空を飛ぶなら青の翼に星屑の仲間たちさん 2017/06/04 20:06:43
    オペラハウスのホールで撮影できたのは凄すぎる
    ハンクさんへ

    同じ時期にシドニーに行きました空を飛ぶなら青の翼に星屑の仲間たちと申します。

    丁度1週間前後しますが、オペラハウスに行きましたがホールは撮影禁止(理由は交響楽団がリハーサル中)でした。

    なのに演奏中に写真を撮って大丈夫だったのでしょうか?ある意味貴重な写真でした。

    ただ私も人の事は言えませんが(空港や駅などで無差別に写真を撮りまくっている)

    貴重な写真が見れて良かったです、

    尚勝手ながらフォローをさせて頂きましたのでよろしくお願いいたします。

    ハンク

    ハンクさん からの返信 2017/07/09 10:34:40
    RE: オペラハウスのホールで撮影できたのは凄すぎる
    空を飛ぶなら青の翼に星屑の仲間たちさん、メッセージをありがとうございました。

    私は建築が専門で、趣味は音楽です。(アマチュアオケでコントラバスを弾いています)
    コンサートホールの写真は仕事上必要な時は原則許可を得て撮影していますが、もちろん演奏会は許可が出るはずがありません。ヨーロッパやアメリカでは写真に寛容なところが多いのですが、そうでない国では私はいつも後ろが壁の席を選んで、演奏が終了した後、指揮者が観衆に挨拶しているところを撮影するようにしています。

    確かに後ろめたく感じることもありますが、今までとがられたことはほとんどありません。

    ご参考まで ハンク

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