ペトロパブロフスクカムチャッカ旅行記(ブログ) 一覧に戻る

それゆけ!日本語教師 from ペトロパヴロフスク・カムチャツキー Vol.5

1いいね!

1997/09/01 - 1998/11/30

43位(同エリア53件中)

0

0

JIC旅行センター

JIC旅行センターさん

 日本でも報道されたと思いますが、98年後半のロシアは波乱に満ちていました。カムチャッカでは、ルーブルが下落し始めた8月後半は「遠いモスクワで何やら大騒ぎ」と町中のんきでしたが、9月になると、物価が見る見る上昇しはじめ、わずか1週間でソーセージの値段が3倍、米が2倍。トイレットペーパーや洗剤も大きく値上がりしました。輸入品や買い置き可能なものほど、値上がりが激しいようでしたが、そのうちロシアの国産品もそれに続くようになりました。唯一、地元で獲れた魚やその加工品(燻製、缶詰)などだけが価格据え置きでした。何故かウオッカなどのアルコール類と、アイスクリームもほとんど値上がりしませんでした。「ロシアでこれらを値上げすると、暴動になるからだ」という説もありますが、本当でしょうか。

 追い討ちをかけるように、エネルギー危機がやって来ました。もともとカムチャッカ半島の大部分では、暖房や電気の燃料の油を他所からタンカーで輸送してまかなっています。半島内に水力発電所や、天然ガスなどの埋蔵資源などもありますが、まだ利用する設備が完全に整っていません。98年は輸送費の値上がり、作業員の給料未払い、悪天候によるタンカー遅延など様々な原因が重なって、燃料不足が頻繁に起こりました。

 ◆ ◆ ◆ 

 例年より早く、10月にはすでに冬が始まりましたが、暖房がなかなか入りません。11月になって地吹雪が吹き荒れる頃、さすがに大部分のアパートには暖房が入るようになりましたが、私たちの大学は待てど暮らせど、寒いまま。学生も先生も、教室の中で分厚いコートを着て、時には帽子や手袋もつけて、震えながら授業をするありさまです。何回か教員会議や、学生の合同会議が行なわれましたが、なかなかこれといった解決策が見つかりません。

 特に女子の中で日増しに不満が強くなっていき、ある日、2年生の女子数名が学部長を取り囲んで、激しく抗議しました。「私達は学費と一緒に設備費や光熱費も払っている。何でこんな目に合わなくてはならないのか」「大学は暖房費をけちっているだけなのでは?」と、日頃はかわいい彼女たちも、さすがにその時はすごい迫力。しかし楽天的な学部長は事態の深刻さに気付かず、軽い気持ちで「わかったわかった。では2日後に暖房が入るようにしよう」と約束してしまいました。根拠のない約束は、怒りを倍増させたようです。2日後に彼女たちは、朝一番に教室の温度を計り。何も変化がないことを確認すると、「今の状態は勉強をする環境ではない。私達には最低限の環境が与えられる権利がある」と署名を集め、1週間のストライキを起こしました。先生方の中には、「やる気さえあれば、どんな環境でも勉強はできる」という意見もありましたが、私はこの八甲田山のような環境では語学教育の成果も上がらないと思い、学生の意見に賛成でした。1週間後、わずかに暖房が入り、暖房のパイプに人肌ぐらいの温もりが感じられよした。まだ教室の中でコートを脱ぐことはできませんが、震えることはなくなりました。

 ◆ ◆ ◆ 

 その頃、同時に停電もよく起こるようになりました。最初は計画停電で、あらかじめ地区ごとに1週間の「停電時間割」が発表されました。例えば私の地区なら、「電気があるのは、月曜日は午後2時?5時と、夜中の12時?3時。火曜日は午後5時?8時と、翌朝3時?7時」という具合です。時間割は複雑で、予定通りにいかないことも多く、町でも大学でも「電気ある?」「今日は朝から無いよ」などという会話がお決まりの挨拶になりました。

 大学の学生ストライキが終わってほっとした頃、予告なしの24時間停電が始まり、何とその後10日間も続いたのです。明かりは懐中電灯とロウソク、炊事はカセットコンロでしのぎます。授業で「電気がなかったので宿題ができませんでした」という学生には、「ロウソクがあればできるはずです。200年前は電気などなかったのです」と、まるで自分がその頃生きていたかのように言っていましたが、実のところ先生である私の方が慣れないサバイバル生活に振り回されていました。「誕生日ケーキ」「キャンドルサービス」等のイメージしかないロウソクが、こんなに有り難いものとは知りませんでした。テレビもないので、ラジオの地元FM放送が唯一の娯楽。FMでは停電を慰め合う企画が満載で、最新の停電情報や、「私はこうして停電を乗り切っている」というリスナー電話特集、「ロウソクのふちに石鹸を塗ると減りにくくなる」「カセットコンロならではのおいしい料理レシピ」等の番組があり、私もずいぶん励まされました。

 これからどうなるのか、身の回りでも悲観論、楽観論といろいろです。でも概してみんな苦しい生活の中でも小さな楽しみを見つけ、危機を明るく乗り切る才能に長けているようです。私も今のところ、それを見習って何とか楽しくやっています。

(JICインフォメーション 第95号 より転載)

PR

この旅行記のタグ

1いいね!

利用規約に違反している投稿は、報告する事ができます。 問題のある投稿を連絡する

コメントを投稿する前に

十分に確認の上、ご投稿ください。 コメントの内容は攻撃的ではなく、相手の気持ちに寄り添ったものになっていますか?

サイト共通ガイドライン(利用上のお願い)

報道機関・マスメディアの方へ 画像提供などに関するお問い合わせは、専用のお問い合わせフォームからお願いいたします。

旅の計画・記録

マイルに交換できるフォートラベルポイントが貯まる
フォートラベルポイントって?

ロシアで使うWi-Fiはレンタルしましたか?

フォートラベル GLOBAL WiFiなら
ロシア最安 578円/日~

  • 空港で受取・返却可能
  • お得なポイントがたまる

ロシアの料金プランを見る

フォートラベル公式LINE@

おすすめの旅行記や旬な旅行情報、お得なキャンペーン情報をお届けします!
QRコードが読み取れない場合はID「@4travel」で検索してください。

\その他の公式SNSはこちら/

PAGE TOP