2015/07/19 - 2015/07/20
43位(同エリア119件中)
コタさん
真夏の暑い中を足尾銅山の廃墟と松木渓谷に残る廃村松木村をわたらせ渓谷鐵道に乗って探検してきました。
桐生に前泊し、絹織物とパチンコ台という二大産業の廃れてしまった現場を目の当たりにしたあと、翌日のわ鐵間藤行き始発に乗って足尾へと。明治から昭和にかけて国の命運を賭けた巨大鉱山に残る廃墟とさらにその奥にある巨大鉱山からもたらされる公害によって廃村とならざるを得なかった村の跡、その村の跡を襲うかのような銅鉱石の残渣の山。教科書に載っていた足尾鉱毒事件は鉱山から流れ出る毒水が渡良瀬川を流れて下流の村の田んぼに襲い掛かるというものでしたが、鉱山で採掘された銅鉱石を精錬する過程で発生した毒ガスが周囲の山々を丸裸にし、上流の村に住む人を追い払ったという事実を見てきました。
軍艦島が世界遺産となりましたが、この足尾銅山跡も軍艦島に負けず劣らずいろいろなものが残っています。しかしながらここはその負の面が強すぎることからスポットライトを浴びる可能性は少ないと考えます。でも廃墟は少しずつ崩れ去る運命にあります。見に行くなら早いに越したことはないです。
- 旅行の満足度
- 4.0
- 同行者
- 一人旅
- 一人あたり費用
- 1万円 - 3万円
- 交通手段
- 私鉄 徒歩
- 旅行の手配内容
- 個別手配
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わ鐵桐生駅発間藤駅の始発列車は0639発、6時半に駅についたら既にディーゼル音を響かせて待っていてくれました。券売機でわ鐵フリー切符を買って乗り込みます。
わ鐵はトロッコ列車が有名ですが、普通のディーゼル車も味がある色をしておりかわいい一両編成です。 -
で、誰も乗ってません、運転手さん以外は。
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貸切のまま列車は渡良瀬渓谷に入ってゆきます。大間々駅でも誰も乗ってこなくてさらに奥に進みます。
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草木ダムの横の長いトンネルを抜けると渡良瀬川は白い御影石の川床に清冽な水が流れる渓流となります。
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沢入の駅から先が渓谷鉄道です。足尾行の場合は席は進行方向左側の窓際がよろしいようで。この美しい渡良瀬川の流れが昔は毒水と言われて忌み嫌われていたとは。鉱山の排水が混じっているからこんなに流れが青いのでしょうか。草津でも品木ダムの水は真っ青でしたから。
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足尾の中心、通洞駅の手前に巨大な鉱山関連施設の廃墟があります。ここは最後まで操業していた通洞坑の近くにある精錬工場跡です。
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わ鐵終着駅の間藤駅。立派な駅舎があり、中には時刻表2万キロの宮脇俊三さんが全線踏破された記念の展示があります。鉄ちゃんのバイブルで、自分も学生時代北海道を周遊券でウロウロしていた時に読んだことがあったのですが、ここが終点とは知りませんでした。わ鐵はこの駅で数分停車した後折り返す訳ですが、写真を撮っていると運転手さんに乗って帰りますか?と尋ねられたので、結構トンボ返りをするひとも多いのでしょう。
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間藤駅からその先を目指して歩いていると廃線となった旧足尾線本山駅までの線路が残っています。廃線ファンには堪らないものですが、鉄橋があるために線路内は立入禁止になっています。
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間藤駅から先は精錬所等も廃墟になっているので集落もなくなっているものと思っていましたが、道沿いには民家がびっしり。鉱山はなくなっても人は住み続けるものなんです。集落内には昔鉱山が繁栄を誇った時の建物も残っていました。赤倉売店出張所という建物、これは昔はスーパーマーケットみたいなものだったのでしょうか。今ではこの辺り自販機さえもあまりないのですが。
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赤倉の交差点まで来ると巨大な建物が現れます。昔の本山精錬所跡のようです。この交差点を左に曲がると本山坑という足尾銅山のメインの坑口と鉱山事務所があったところに着きます。その曲がり角にこんな建物。この建物は今でも事業用に使われているようです。
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精錬設備の敷地に入るためには渡良瀬川を渡らないといけないですが、立派な橋があります。古河橋といって、企業名が付いているところを見ると鉱山を営んでいた古河機械金属が架けた橋なんでしょう。車道用の鉄橋としてはかなり古いものですが、現在では渡れません。この向こう側に広大な精錬所が広がっています。
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橋を渡り本山坑方面に向うのですが、旧足尾線はやはり精錬所跡に引き込まれていました。左に見える白いタンクは硫酸用のタンクだったとのことです。さらに奥に見える山は最近の植林活動によって緑を回復しつつありますが、昔は禿山だったのでしょう。
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本山坑口を目指して車道を登ってゆくとそれらしき場所がありましたが川の向こう側、橋のある場所はガッチリとガードされており立入禁止。残念ながら本山の坑口を見ることはできませんでした。
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橋と道路を挟んで左側には山の斜面を切り開いた平地が段々畑状になっています。廃墟のような建物は全くありませんが、石の鳥居が建っております。これが鉱山神社です。参道を登ってゆくと石垣がびっしり、ここは鉱山事務所や住宅のあった場所のようです。既にブッシュとなっている坂道を漕ぎ登ってゆくのですが、結局鉱山神社には辿り着かず。
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辿り着いたのは見晴らしの良い崖上。ここからは足尾銅山の鉱脈が走る備前盾山がよく見えました。この山の下には縦横無尽に坑道が掘られており、既に鉱脈は掘り尽くされてしまっている訳です。
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本山坑口は無慈悲にも部外者完全シャットアウトだったので、本道に戻って渡良瀬川を登りつめることにします。渡良瀬川の対岸からとなりますが精錬所跡の広大な敷地を眺めながら道を登ってゆきます。
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有名な大煙突と選鉱場跡です。この上の段の敷地には硫酸工場があったのですが既に撤去されて更地になってしまっております。鉱山関係の廃墟は既に操業停止から数十年経っている場合がほとんどで、建物や設備の老朽化は著しいことからどんどん撤去されていっています。見るなら早く行かないとダメです。これから日本国内で鉱山が開発されることは考えられないので、自然の景観とは異なり今世紀前半にしか見ることのできない光景です。軍艦島の世界遺産登録により産業遺産も見直されて保存されてくるんでしょうが、その時には単なる観光施設になってあるがままの姿を見ることができなくなっているでしょうから。
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さらに登ってゆくと大きい砂防ダムが次々に現れます。有毒ガス(亜硫酸ガス)に木々がヤラれて禿山になってしまうと雨水の侵食によって山がどんどん崩れてくるので土砂を堰き止めるための砂防ダムがこれだけ必要になるのでしょう。今でも山肌は木がなくて草が生えたようなところばかりです。最上部の最大の砂防ダムは親水公園となっていて環境学習センターもあるようですがパス。先を急ぎます。
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砂防ダムを超えると一転なだらかな谷が3つ合流しています。真ん中の谷が渡良瀬川源流の松木渓谷です。木が生えていれば普通の谷なんですが、有毒ガスによって木々が枯れ山肌が露わになると高山のような景観となり清流が流れていることで渓谷の名称が付いたのでしょう。亜硫酸ガスの流入がなくなって数十年、やっと草が生えてきて荒々しい岩山から緑が戻りつつあります。
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採石場を過ぎ、旧松木村跡と見られるところは荒地となっております。目指す松木渓谷のランドマーク、ジャンダルムです。穂高にもあるジャンダルムです。岩山がそそり立っております。木が枯れ山肌がむき出しになりやがて崩壊してこのような岩壁になったものと思われます。この岩壁の下には渡良瀬川源流の清冽な流れが勢い良く下っており、景観的にはとてもよいところです。この先は沢登の登山道となっており行く手を阻まれております。
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来た道を戻りますが、松木渓谷はまるでスイスの高山のような景観です。然しながら緑の草原は昔は集落があった場所です。人が住むことができなくなったため補償として古河機械金属が村の土地を買い取ったとのこと。このためこの辺り一帯は古河が所有する民有地です。
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さて、往路でも気になっていたこの辺り一帯に広がる採石場のような光景、それも黒い石が多い、さらに草も生えていないのは何でだろうと疑問に思っておりましたが真っ黒な小石の斜面を見ていて分かりました。
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これは銅鉱石精錬の過程で発生する精錬クズでスラグと呼ばれる廃棄物です。何しろ銅鉱石には銅の成分が数パーセントあれば高品位な鉱石と言われる訳ですから、残りの100%弱はクズな訳です。単にクズ石であればそこら辺に放っておいても、あるいは砕石として販売しコンクリートに混ぜてもいいのでしょうが、こんなに大量に山中に放棄してあるのは訳があります。それはこのスラグ、カドミウム等の重金属を大量に含んでいるので利用できないということです。放置されてから数十年は経っているはずなのに草も生えないというのはそういうことだったのですね。でもここに降った雨に重金属が溶け込んで渡良瀬川を流れて、とこの先は考えたくもないことになっています。多分、今でも栃木県と群馬県の境に渡良瀬遊水地という広大なため池があるのは、ここで沈殿させて処理しているのでしょうか。今度いちど視察しないといけません。
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昔ここに村があったことを示す石碑です。補償のために買い上げた土地に廃棄物を貯留させるのは企業の論理からすると合理的なんでしょうが、こんな現実を見せつけられると少々寂しくなってきますな。でも現在これと同じことが東日本方面で進められようとしています。ここと同じように我々一般の目には触れない形で進んでいるのでしょう。
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意外なところで暗澹たる光景を見せ付けられた訳ですが、メゲずに山を下ります。間藤の駅を過ぎ足尾駅へと。立派な駅舎と駅構内です。わ鐵の駅や鉄道施設は国の登録重要文化財になっているようで、この足尾駅もそうです。さらに進んで通洞駅を目指します。
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通洞坑は現在足尾銅山観光という観光施設になっていてトロッコ列車で坑内に行けるようになっています。せっかくなので入場料を払って坑内へと。坑内をトロッコは進んで行きます。さすがに昭和まで稼働していた鉱山です、石見銀山と比べると坑道は広いしレールも敷かれているしと、鉱山経営の近代化を目の当たりにした訳です。
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地上に戻るのは徒歩です。銅山の展示がいろいろされておりまして興味深い展示も多々あります。本山坑付近の当時のジオラマなんかもあって、やはりあの大煙突の辺りには精錬設備がびっしりと建っていたようです。10年早くここに来ていたら巨大な廃墟群を見れたことでしょう。
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これが通洞坑の坑口です。昭和になると足尾銅山で3つあった坑口のうち通洞坑が最後まで使われたとのこと。しかしこの坑口は渡良瀬川のすぐ横にあって渡良瀬川が氾濫したら坑内水浸しになるのではと思えるようなところにあります。
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帰りはわ鐵名物の駅構内の温泉である水沼駅で途中下車、フリー切符で20%オフにて温泉に入り大広間で生ビールを飲んでいい気分になって東武特急あかぎで浅草まで。朝早くから動いたせいか、とっても長い一日でした。
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この旅行記へのコメント (3)
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- 墨水さん 2016/09/08 00:56:52
- 現在。
- コタさん、今晩は。
足尾には一度行ってみたいと、常々思っておりますが、無精をしております。
さて現在は、足尾鉱山の採掘並びに精錬事業は終了しているので、渡良瀬川に鉱毒は流入しておりません。
銅を精錬する過程で水銀に銅を付着させ、最終段階で水銀から銅を分離して銅採取していました。
いらなくなった水銀を川に流していたのが、俗に言う所の「鉱毒」です。
明治時代は、原因が特定できなかったので「鉱毒」と呼ばれていました。
現在、渡良瀬川が青いのは「藻類」や「バクテリア」の影響です。
環境が、改善されつつ有る証拠です。
廃村の最大の原因は、環境破壊ではなく、古河鉱業が操業終了して閉山してしまった為、下請けや二次産業関連がほぼ総べて移転し為に、集落自体が維持不能に陥ったためです。
因みに、渡良瀬遊水池の水質も改善されてきています。
現在の足尾の主たる産業は、コタさんがご指摘するように、事業所諸施設の管理(含、解体)です。
それと、山体の回復事業(含、砂防、植樹活動)で、その次が少しばかりの観光ですね。
所で、通洞には、もっとすごい物が存在します。(笑)
墨水。
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- なっとうPOWさん 2015/09/27 19:51:40
- 足尾には1日でも早く行きたい
- 詳細なリポートに感動しました。足尾行の参考とさせていただきます。
何十年も前からわたらせ渓谷鉄道(旧足尾線)に乗り、足尾に行きたいと思っておりました。家から車で160?程度しかないのに、草木湖マラソンに電車の乗り継ぎミスなどで2回も行けずケチが付いたのを筆頭に、何故か縁なくココに至ってしまいました。そうこうしているうちに、6年前子供に小学校の修学旅行(バス旅行ですが)で先を越され、羨ましいと思っておりました。
コタ様のおっしゃるとおり、廃墟というのはナマモノの感がありますね。何とかして早く行かねばなりませんね。
それから、コタ様がご懸念の渡良瀬遊水地では、トライアスロン大会で私は3回泳ぎました。鉱毒が沈められているという事実は理解しておりましたが、今考えると恐ろしいことです(髪が薄くなったのはこの所為か?)。交通規制をしなくてよいので、今でも年間数回の大会が行われております。一見平穏な風景ですが、味はオープンウォータの泥臭さより、化学的な感じがしました。
廃坑の旅行記は、それぞれに興味を惹かれました。興味の惹かれる儘に奥へ奥へと進むスタイルには共感を覚えます。
- コタさん からの返信 2015/09/29 21:37:08
- RE: 足尾には1日でも早く行きたい
- なっとうPOWさん、ご記入ありがとうございます。
私も関東にいるうちに足尾には行っておきたかったんです。やっと行けたという思いです。行ってみてもっと寂れたところかと思っていたら人も住んでいて会社もあったり店もあったりで廃墟ばかりのところではありませんでした。でも精錬所の跡地は確実に取り壊しが進んでいる模様で、大煙突が素っ裸になって建っていましたが数年前まではもう少し建屋が残っていたようです。早めに行っとかないとどんどん失くなってゆきますね。
通洞坑側の廃墟群には前回行けてないので涼しくなったらもう一度足尾にチャレンジしようと思っています。雪の足尾もいいかもしれません。ということでどんどんのめり込んでしまうんでしょうか。
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