2014/10/12 - 2014/10/12
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ちびのぱぱさん
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乗ろう乗ろうと思っていたら、「引退」の文字が新聞に。
SLという、むきだしの「機械」の迫力は、まるで生き物のようです。
後悔しないためにも、乗っておきたい。
「は、は、は、エスエルっちゅうのは、乗るもんじゃなくて見るもんでしょ。」
という正論に、ただ情けなく笑ったあの日の思い出がよみがえる。
- 旅行の満足度
- 4.5
- 同行者
- カップル・夫婦(シニア)
- 交通手段
- JRローカル
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-
日曜の朝、沖縄では台風19号が猛烈に暴れているいうのに、北海道は……
(写真は札幌駅) -
ない知恵をしぼって立てていた計画では、まずは少し早い普通列車で銭函駅に行く。
そこで、SLの通過を待って写真を撮る。
連絡橋の上で、石炭くさい煙にまみれてみたい。
わたしは札幌8時17分発の普通列車に乗るのですが、SLニセコ号は8時31分札幌発。
つまり、14分早い列車で先回りをする。
ことによると札幌のホームで一目みれるのではないかというささやかな期待は外れ、
ニセコ号はとうとう姿を現わさず、肩すかしを食った私はとにかく先に行って銭函駅でニセコ号の通過を待つこととします。
8時45分、銭函着。
「あの〜」
「はい、なんでしょう。」
「SLニセコ号は何分頃通過しますかねえ。」
「ええと(時計を見ながら)、8時58分頃でしょう。」
銭函駅の若い駅員さんは、まじめな顔で答えてくれました。
-
なぜ銭函駅かと言いますと、
-
なんとなく、です。
SLの通過を待つのに、ふさわしいような気がしたのです。
映画「駅 STATION」の冒頭シーン
降りしきる雪のホームから走り出す汽車
涙目に笑顔を作り、列車の昇降口で敬礼する、いしだあゆみさん
走り去る汽車
何も言わず、黒い革手袋を右手にはめ、うつむく健さん
この銭函駅が舞台でした。 -
その昔、昭和時代が終わろうとしてた1988年の夏、C62ニセコ号というSLがこの路線に登場しました。
C62というのはとてもでっかい蒸気機関車で、なにやら銀河鉄道999のモデルだという。
北海道グリーンきっぷというがそのころありまして、道内のグリーン車や当時まだ3路線を往復していた寝台列車に乗れるというお得なきっぷでした。
7日間有効で、料金は3万円ちょっきりだったと思います。
旅の始まりは網走駅でして、私にとって永年高嶺の花だった寝台車の寝間着に着替えていると、
「へえー、シロクニに乗るんですか。」
と、出張中の同年代のサラリーマン氏。
「そうなんです、乗るんです。」
満面の笑みで答える私。
「でもあれって、乗るもんじゃなくて見るもんでしょ。」
「……。」
そんな会話を思い出しちゃいました。
さて、そろそろヤツが来る頃だ。
この連絡橋の上で待っています。 -
ありゃりゃ、ディーゼルが引っ張ってる。
市街地を抜けるからなのだろうか、どうも間抜けに見えるなあ。
あっというまに、通り抜けて行きました -
次の小樽行きに乗るまでの10分ほどを、ぶらぶらとしてやり過ごします。
本当は、ニセコ号には「乗る」つもりでいた……。
でも、きっぷが取れませんでした。
乗り鉄、撮り鉄、などという言葉はいつ頃から使われ出したのだろうか。
1988年(昭和63年)に乗ったC62は、小樽からだったのですが、カフェカーにはかわいい制服の女性乗務員がいて、小樽駅は華やかな雰囲気に包まれていました。
そのころからじゃなかったか、動態保存なる言葉がはやったなあ。
ずいぶん新聞やテレビで取り上げられたのを覚えています。
やはり乗り物は、動いてなんぼだと思います。
東京に住んでいた中学生の頃、秩父鉄道で現役の汽車に乗りました。
乗っていたのはほとんどが、もんぺ姿の担ぎ屋のおばちゃんたちでした。
蒸気機関車の思いでといえば、それしかありませんが、いい大人になってから接したSL復活のニュースには、意味もなく胸を熱くしました。
まさに汽笛一声、小樽駅を出た汽車には、それでも所々空席もありました。
そのくせ、登りが続くあたりの山の斜面にはどこから来たのかびっくりするような数の鉄道ファンが陣取って、私の乗った汽車が通りかかると一斉にシャッターを切るのが分かりました。
「あれは見るもんでしょ。」
網走発の寝台車のサラリーマン氏の言葉が脳裏をよぎりました。
わたしの席のはす向かいにはご老人たちの4人組が座っていて、話に花を咲かせていました。
「ぼくらの部隊はねえ、北支にいたからねえ。」
「じゃあ、大変だ。」
「俺は、満州の……。」
窓の外を見ると、野良仕事をしていたおばあちゃんが機関車に驚いてこっちを見つめています。
やがて、大きく手を振ってくれました。
私も一生懸命手を振りましたが、どうも、おばあちゃんの目には入っていないようで、彼女の目はもっと遠くの方を見つめているようでした。
いったいおばあちゃんの目には、何が映っていたのでしょう。 -
-
日曜の静かな朝。
やってきた9時10分の普通列車「小樽行き」は、なんと満員でした!
そんなばかな!
なんで、こんな時間にみんな乗ってるの?
三連休の真ん中、天気は快晴、ということなんですか?
どうも先が思いやられる。 -
吊革につかまった満員電車の、人の隙間に、静かな石狩湾が見え隠れします。
しかし、良い天気……。
潮が洗うような銭函小樽間の路線は、とても風光明媚です。
20mくらいの岩が海から屹立しているのは張碓(はりうす)海岸です。
そのすぐ脇に岩礁が顔を出しているのが見えます。
ここは、アオバトという珍しい鳩が群れで潮水を飲みに来ます。
もう16年も前ですが、ここで海水浴をしていて、この岩礁で一息ついていたときのことです。
私の頭上をかすめて20羽ほどのアオバトの群れがやってきて、代わる代わる潮水を飲んだのです。
目の前にいる私には、目もくれません。
普段、深山で声を聞くことはあっても、まず姿を見ることはありません。
オウムのような鮮やかなグリーン。
不思議な光景だったなあ。
その後張碓海岸は、線路を渡る海水浴客の死亡事故が続き、とうとう立ち入り禁止になってしまいました。 -
小樽に着くと、どっと降りた乗客が乗り継ぎの蘭越行き普通列車の列に先を競って並んでいます。
本当は、小樽駅で待っているはずのSLニセコ号の写真を撮るつもりでしたが、席が取れないと苦しいので、写真は倶知安駅で撮ることにして、わたしも取りあえず列に並びます。
すれ違いばっかりで、なかなか近くでお目にかかれないなあ……SLせんせい。
幸い、キハ40のロングシート部分に席を見つけることが出来ましたが、立っている人も大勢いる。
乗客の隙間から、向こうのホームにいるC11がチラリと見えました。
みんなこの混み具合にあきれていましたが、ほとんどの人(3分の2くらい)が余市駅で下車してしまいました。
「最近はあれよ、大河よりも朝のテレビ小説だね。」
年配のご婦人たちが、納得顔で話していました。
そうか、マッさんか。
倶知安駅に10時59分、定刻より少し遅れて着きました(写真上)。 -
倶知安は水の旨いところです。
羊蹄山の恵み。
ごくごく飲んで、ポケットに入れてあったアンドーナツをほおばると
「ちょっと、写真を撮っていただけないかしら。」
年配ですが、上品でオシャレな一人旅のご婦人に声をかけられました。
「は、はい。駅がバックですね。」
「ふふふ、アンドーナツを召し上がってからでけっこうですよ。」
無理くり口にねじ込んだのを見て、笑っておっしゃいました。
笑顔は、高橋恵子さん、かな。 -
すぐ横に、啄木の歌碑。
「真夜中の 倶知安駅に 下りゆきし 女の鬢の 古き傷あと」
「一握の砂」に収められています。
昭和の50年頃まで、函館発の網走行き夜行寝台があったと記憶しています。
啄木は明治40年に札幌に行くため函館発19時の夜行列車に乗ったようです。
倶知安駅に停まったのは真夜中でしょう。
一人の女が下りて行くのが目に入ります。
女の鬢(びん:こめかみのあたり)に、古い傷跡がありました。
さて、どこでSLを撮ろうかな。
目の前に生協のスーパーがあって、屋上が駐車場になっている。
昼飯用のおにぎりとお茶を買い、ふくろをブラブラさせながら上がってみると、ちょうど良い! -
ながくも 声を ふるわせて
汽笛をならす。
汽笛の声というのは、もの悲しいなあ。 -
-
ここ倶知安から、SLニセコ号は自由席になります。
さっきスーパーの屋上にいるときから、
「本日、大変混み合っております。乗車ご希望の方は……。」
と、構内放送が抜けるような青空に響き渡っておりました。
「乗るのは、あきらめるかな。」
ちょっと気後れしております。 -
-
-
発車のアナウンスにつられ、乗っちゃいました。
通勤時間の山手線みたい(?)に混んでいます。 -
入口のドアの横の空間に、なんとか居場所を見つけました。
今日は本当によい天気。
窓からは、雲一つ無い羊蹄山が見えました。 -
-
-
同じ空間を共有した同年代と思しき男性は、
「毎年来てますけど、こんなに混んでいるのは初めてですね。」
だそうです。
「今年で最後だそうですからね。」
「あ、そうだったんですか。」
「余市などは、すごい人が下りて行きましたよ。」
「そう言えば、夏に行ったら人で埋まっててびっくりしたな。」
「例のNHKのドラマのせいでしょう。」
「なんですか、それ。」
どうも、世間に疎い人のようです。
昔、岩内に住んでいて、国鉄岩内線(昭和60年廃線)でいつもSLに乗っていたのだそうです。
「なつかしくて、いつも乗りに来ています。」
「このC11は前のC62に比べて、少し小さいようですね。」
「なにしろ、ディーゼルが後ろにくっついて押してますからね。」
「そうか、押してもらってるのか。」
「C11だけではこんなにスピード出ませんよ。もっとゼイゼイいってるはず。」
程なくしてニセコ駅に着きます。
「乗る」ということにすっかり哲学を失った私は、
カメラさえ持たず、混み合う列車の中でも悠然としている「岩内氏」に別れを告げると、ニセコ号を捨てました。 -
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しいて言い訳をすれば、目の前を走りすぎる「勇姿」を見たかった。
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時刻は12時を少し回ったところ。
次の札幌方面行きが来る13時25分まで、ニセコ駅前の温泉にはいることにしました。
タオルを持参しなかったので150円で購入し、入場料500円、計650円也。
中庭が高山植物が配されていてとてもオシャレでしたが、泉質はたいしたことなさそう。
でも、すっかり寛ぎました。 -
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小樽行き普通列車は、ちょうど座席が埋まるほどの入り。
倶知安駅に着くと、22分間の停車だとアナウンス。
ひまだから、ホームに出ると…… -
C11がいるじゃありませんか。
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石炭を積んだり、水を補給したりしています。
「倶知安駅」というのは、そういうところです。 -
しかし、良い天気。
-
15時29分、定刻ちょうどに小樽に到着しました。
余市のニッカで工場を見学する、というのが頭をよぎりましたが、芋を洗うような混み方だとおっしゃっていた「岩内氏」のことばを思い出してやめました。 -
夕食にバーガーキングを食べようと思っている。
小樽駅にあるのを見つけて、前から狙っていた。
もう30年も前に、アメリカ旅行をして食べた味が忘れられない。
その前に、腹ごなしに散歩します。 -
駅舎の窓のランプ
-
小樽駅と夕日を背にして、運河の方に下っていきました。
小樽の駅前通は、中央通といいます。
通りに沿ってまっすぐ運河の方に自分の影が伸びて、なぜかもの悲しい気分になりました。 -
北海道は、もうすっかり陽が傾いている。
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運河のところでは、若い女性の二人組に、人力車の兄さんが一生懸命に営業していました。
頑張れ兄さん。
運河に射す西陽が、そこだけまぶしい。 -
人力車の兄さんのセールストークが続いている。
いかにも観光客風の20代の女性二人組は迷っているらしい。
営業の仕事は、ずいぶんしました。
最後の、クロージングのところは、いつもながら緊張したものです。
「じゃあ、おねがいします。」
と、
「今回は、やめておきます。」
の違いは天と地、月とすっぽん、美女と野獣、割れ鍋に綴じ蓋……
おっ、交渉成立らしい。
女性二人が、人力車に乗り込みます。 -
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少し駅方向に戻り、旧手宮線沿線を歩いています。
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ものの一時間もせずに、駅に戻りました。
小樽駅のすぐ横にある三角市場には優しい灯りがともり、どこか店じまいの気配があります。 -
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大好きなバーガーキングは小樽駅構内にあり、おいしいバーガーをいただけます。
ここは、三十年前にアメリカでファンになりました。 -
アメリカのは、もう少し「焼き肉感」が、あったかなあ。
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夕闇が迫り、小樽のランプにも灯りがともり始める。
-
もう一時間もすればニセコ号がバックしながら帰ってくる。
転車台はないのだろうか。
蘭越からはるばる100kmも、ずっとバックで来るのはつらそうだ。
しかし、車内に乗っている分には同じ事だろうか。
あれこれ考えていたら、なんだか里心がつきました。
今日は妻を置いてきたので、このあたりでそろそろ帰ろう……。
※利用したのは道央「1日散歩きっぷ」2260円
SLニセコ号は11月初め頃までの土日祝日運行です。
札幌・倶知安駅間は全席指定(820円)、倶知安・蘭越駅間は自由席。
写真撮るのに通過待ちをするなら「蘭越駅」「塩谷駅」がおすすめと思います。
さらに「銀山駅」は、多くの撮り鉄が撮影のために利用する駅です。
SLが牽引するのは、小樽から蘭越までの間です。
札幌小樽間はディーゼル機関車がSLの前を引っ張ります。
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この旅行記へのコメント (3)
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- わんぱく大将さん 2014/11/11 10:35:51
- 物悲しい汽笛
- ちびのぱぱさん
小説を読んでるように読ませていただきました。
私も学生の頃、文通をしていた小樽の女性からSLの絵葉書を送ってもらったことがありました。 別に鉄道が好きとか、嫌いとか関係なく。あの黒い塊が煙をはき、物悲しい汽笛を鳴らし、 なんだ坂、こんな坂と、まるで老体に鞭うつようにはっ、はっ、といいながら上っていく姿がなんとも言えんというか。
中学校の時に学校から”とうちゃんのポ―が聞こえる”って映画に行きました(もしかして前に書きました?) 小林圭樹さんがの機関手、彼の娘さん役は確か関西の人だったような。柔道一直線に出てた? 吉沢京子さん?彼女が不時の病で入院するんですが、 その病院近く、おとうちゃんの乗ってる機関車が通って、そこで汽笛を鳴らすんですよ。結局その汽笛を聞きながら亡くなっていくんだったか? 忘れてしまいましたが。 みんなを泣かせた映画でした。 なので余計、物哀しく聞こえます。
大将
- ちびのぱぱさん からの返信 2014/11/11 12:58:02
- RE: 物悲しい汽笛
- 大将さま
いつもありがとうございます。
大将さんの、スペイン美人を見るのを楽しみにしています。
昔、学生旅行の際に、スペインを廻ってきたという旅行仲間が「スペインは美人の宝庫だった。」と言っていたのを思い出します。
SLの話ですが、
時速500キロを目指すリニア新幹線の着工を国土交通省が認可したというニュースが、ホンの一二週間まえに報じられていました。
そんな時代になっても、人々がSLに惹きつけられるのは、どうしてなんだろうと思います。
汽笛を鳴らすしかない無骨な父親と、それを父親からのメッセージとして受け取る娘。
汽車の汽笛でなければ、絵として成り立ちませんね。
いつも、ちゃんと読んでくださり、ありがとうございます。
- わんぱく大将さん からの返信 2014/11/14 02:24:26
- RE: RE: 物悲しい汽笛
- > 大将さま
>
> いつもありがとうございます。
> 大将さんの、スペイン美人を見るのを楽しみにしています。
> 昔、学生旅行の際に、スペインを廻ってきたという旅行仲間が「スペインは美人の宝庫だった。」と言っていたのを思い出します。
>
> SLの話ですが、
> 時速500キロを目指すリニア新幹線の着工を国土交通省が認可したというニュースが、ホンの一二週間まえに報じられていました。
> そんな時代になっても、人々がSLに惹きつけられるのは、どうしてなんだろうと思います。
> 汽笛を鳴らすしかない無骨な父親と、それを父親からのメッセージとして受け取る娘。
> 汽車の汽笛でなければ、絵として成り立ちませんね。
> いつも、ちゃんと読んでくださり、ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそです。 大将
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