2008/03/08 - 2008/03/08
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miyabi-doさん
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サンフランシスコへ行く前に、韮崎にある蕎麦屋のご主人から、手紙が届いていた。
還暦はとうに過ぎ、息子さん主体で店が賄われるようになったこと。春めいてきたので、顔を見せに来ませんか・・など、簡潔素っ気なく書かれていながらも、「久しぶりに会いたいですね」という気持ちが伝わってくる内容だった。
かれこれもう20年近く懇意にさせていただいている店で、近くにある谷桜酒蔵のご主人に案内されて依頼の、つきあいである。
アメリカ旅行から帰国して、時差呆けのせいかam3:00台からam4:00過ぎには目が覚めてしまう。
この日も目が覚めて眠れぬまま朝になり、急に思い立って高速バスの時刻表を調べて、行ってみることにした。
新宿から出るバスの、出発10分前に滑り込み、席を何とか確保した。中央高速をひた走り、しばらく微睡むと車窓に見える遠い山には、まだかなりの冠雪があった。
韮崎のバス停に着いたのは、am11:30少し前。ここから歩いて10分もしない所に、目指す蕎麦屋「瓢亭」がある。
以前は韮崎市内の表通りにあったが、数年前に移築しその開店祝いに訪れて以来である。
「ご無沙汰してます」と挨拶してカウンターに近づくと、全て見渡せる調理場には、ご主人夫婦に息子さん夫妻とお孫さんが笑顔で迎えてくれた。
店の作りは以前と変わらず、ご主人のポリシーから、蕎麦を茹でている所もまる見えだし、お客さんが蕎麦を手繰っている姿も見える方が良いと、いわゆる"晒し"(オープンキッチン)のスタイルを採用している。
この方がカウンター越しに客とおしゃべりも出来るし、今なら店の前に車が停まった段階から、何人連れか、顔見知りかが分かるようになっている。
お孫さんにアメリカ土産を渡しつつ、せいろを2枚注文した。
ご主人とおしゃべりをしつつ、息子さんの動きをそれとなく見ていたら、動作に無駄が無くなり、身体で仕事を覚えたようだ。
息子さんが「店を継ぐ」と言い出した市内の時代から、手伝う姿は見てきたが、危なっかしくて無駄やそつが目立って、観ているこちらがハラハラ、やきもきしたものだ。
中央道の近くに移転した段階でも、まだ粗を少し感じたが、目の前にいる姿は、「よくぞここまで成長したものだ」というくらい、見惚れるものがある。
せいろを手繰っていると、ご主人がタラの芽と新生姜の天ぷらを添えてくれた。
春の訪れを告げる苦みのある香りが、口中に広がって何とも心地よい。
昼時なので、次々に客が現れ、そこそこどころか、かなり繁盛しているようだ。
もどりのバスまで1時間余りあるので、熱燗を注文すると、またまた酒のアテにと、鉄砲漬けと自家製の和え物が登場。
ちびり、ちびり、惜しむように、舐めるように盃を傾けていると、気怠さの中から睡魔が顔を出した。
これなら、帰りのバスで眠っているうちに新宿に着くに違いない。
店内を見回すと、映画好きのご主人が集めた、有楽町に日劇があった頃の映画のチラシが飾ってあった。
マリーネ・ディトリッヒやジャン・ギャバンの、若き日の姿が額に納められていた。
懐かしい顔にお会いし、旨い蕎麦を食べ、おしゃべりを楽しみ、酒に添えられたもてなしの小皿に口福を感じた、韮崎詣では、予告通り寝ている内に新宿に戻っていた。
その時は、ご主人が主で、息子さんが手伝う形だったが、今は立場が逆転しているようだ。
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