Good times Bad times #1

1998/10 - 1998/10

香港、九龍。中華人民共和國四十九周年建国記念日の夜。

彌敦道 - Nathan road - は歩行者天国となり、おびただしい数の人々が、ある場所に向かって流れていた。

重慶大厦から道へ飛び出し、人々に流され、澱んだところはプロムナードの近く。大勢の香港人は、ある方向に目をやって何かを待っていた。何が起こるか知りたいのだが、生憎、廣東語を話すことができない。近くに旅行者らしき欧米人をひとりみつけた。
　
─　What's coming up ?
─　Fireworks.

日本のそれより綺麗とは思えないものだったが、異国の夜空で見上げるいくつもの閃光に、周りの人と同じく

「哇」

と歓声を上げながら拍手をしていた。

エリア 香港(香港)

翌日の記念パレード。香港獅子の滑稽な舞いをしばらく見物してから、ビクトリア・ハーバーを挟んで香港島を見ることのできるプロムナードへ歩いていった。ぽこぽこぽこと進む天星小輸 - Star ferry - が浮かんでいる。

知らない男に声を掛けられた。マカオのカジノでブラックジャックのディーラーをやっている「RUDY」という男。「数日の休暇で香港に遊びに来ている」と。いくつか言葉を交わし、別れた。彼もまた、重慶大厦のある一部屋に寝起きする宿泊客のひとりだった。
　
重慶大厦「A座」のエレベーターは慢性的に混んでいる。「第一招待所」は７階。「奇数」階に停まる方のエレベーターに乗るため、両替店の壁に寄っかかって待っていた。この数分間、どうしたって並んでいる人々の顔を観察せずにはいられない。世界のいろいろな人種が集まっているように見える。その中に、数日前の見覚えのある顔があった。

「ブラックジャックのディーラーをやっている」彼の部屋に誘われた。その部屋はずいぶんときれいで、彼が話すその部屋の宿泊料は「第一招待所」のシングルルーム、ちょうど２倍の値段だった。

─　ブラックジャックで遊ばないか。金は賭けないで、、、

その時、電話が鳴った。RUDYは聞き慣れない言語を遣い、時々笑っている。　

─　今からオレの「ボス」が来る。ボスのブラックジャックの腕はナンバー１だ。オレはナンバー２。

ものの１分も経たないうちに、電話の相手はやってきた。「ボス」はベッドに広げられたカードを手にとる。

─　いいか。今から「ブラックジャックで絶対に勝つ方法」を教えてやる。誰にも言うなよ、、、

「ボス」の教えてくれた方法はあまりにも稚拙だった。確かにそれが「バレ」さえしなければ勝てるだろう。ディーラーとグルになり、サインを送るのである。

─　わかったか。そしたら、カジノへ行って今の方法で一稼ぎしよう。しかし、オマエはまだ初心者だ。今、その方法を知ったばかりだし、儲けて大金を手にしたら、表情や態度に出るだろう。イカサマがバレたらオレはクビだ。

─　オマエに 300 US ドルを渡す。金持ちのムスリムがひとり居るから、「カジノの練習」として、そいつから金を捲き上げよう。いいか。絶対バレないようにやれよ、、、

部屋には「日本の金を狙うニンゲン」ふたりと「日本の金を持つニンゲン」ひとり。そしてさらにもうひとり「狙う側のニンゲン」が増える。そういうシナリオのはずだ、、、

部屋のクーラーは効き過ぎているくらいだったが、背中の汗は乾いてないようだった。

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