2007/07/20 - 2007/07/20
181位(同エリア456件中)
まみさん
2007/07/20(金)第13日目:マラムレシュ地方からブコヴィナ地方へ(w/現地ガイド)
【宿泊:Pension Corlatan(グラ・フモールルイ郊外)】
村の市場見学、ドラゴミレシュティ修道院の12使徒の日の特別のミサを見学、プリシュロップ峠でコーヒーブレイク、青のヴォロネツ修道院(「最後の審判」のフレスコ画が一番鮮明に残っている)
ルーマニアを再訪するなら、ブコヴィナ地方の修道院は必ず訪れようと思いました。
いわゆる「5つの修道院」。
フレスコ画が外壁に描かれているのも珍しければ、それが長い年月の風雪にも耐えて、ついこのあいだ完成したばかりのように鮮やかに残っているという奇跡の修道院。
その中でも、特に評判の高いヴォロネツ修道院は一番楽しみにしていました。
あれこれ下調べをいくらしても、「5つの修道院」それぞれの特徴がなかなか覚えられなかったのですが、ヴォロネツ修道院だけは事前に覚えました。
システィナ礼拝堂の壁画にも匹敵すると謳われる、美しい青が顕著なヴォロネツ修道院の壁画。
キーワードは「ヴォロネツ・ブルー」あるいは「ヴォロネツの青」、「青のヴォロネツ」。
青は大好きな色なので、とりわけ楽しみでした。
そして確かに、奇跡の青だと思いました。
下調べのときに褒めたたえる文章にさんざん触れてきて、またか……と飽きそうなくらいだったのですが、実物をやっと目にして、ああ、これがそうか、としばらく口をきけませんでした。
あの褒めたたえようを嘘だと思ったわけではないのですが……褒めちぎられすぎていたせいで、どうも私は半信半疑になっていたようです。
あれらの褒めたたえの言葉全てが、ストーンと私の中におさまりました。
全く文句のつけようがありません。
文句をつけられるとしたら、北面の壁画はあまり無事に残っていなかったことでしょう。
しかし、壁画が無事な西面、南面の壁画の青は、揺るぎないものでした。
私の興奮とシャッターを切る音が収まるのを待って、現地ガイドのニコラエさんが壁画の図像の解説をしてくれました。
これも、当然期待していたこととはいえ、とても嬉しかったです。これぞ個人ガイドのいる醍醐味@
もともと中世のプリミティブな絵が大好きで、さらにその図像の謎解きも大好きな私ですから。
たとえ図像を詳しく解説している本を持参していたとしても、現場でどれがどれと判別するのはなかなか大変です。ガイドが指さして説明してくれるのにはかないません。
しかも個人ガイドなので、私が分かるまで待ってますし、言葉を変えて説明してくれます。
「ヴォロネツの青」に右脳が満足し、図像やその解説に左脳が満足しました。
「伝説の国、修道院の国 モルダヴィア地方
『美しい』。ありきたりの言葉だが、スチャバ近郊のブコヴァナにある修道院群の壁画を見た人は、誰しもそう感じるに違いない。中でも北モルダヴィアのヴォロネッツ修道院は、外壁のフレスコ画が今でも描かれた当時のまま残っており、芸術的にも価値が高い。」
(「東欧の郷愁」菊間潤吾・監修(新潮社)より)
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★7/20〜7/22にかけて訪れたブコヴィナ地方の修道院(築年代順)
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■ヴォロネツ(Voronet)修道院(1488年)
・世界遺産。7/20(金)にガイドと最初に訪問。
・外壁のフレスコ画かなり健在。「最後の審判」が特に有名。
・青が顕著で「ヴォロネツの青」として有名。
・君主が建てたので塔がある。
□アルボレ(Arbore)修道院(1503年)
・世界遺産。7/21(土)にガイドと5番目に訪問。
・外壁のフレスコ画まあまあ健在。緑が顕著。
・領主が建てたので塔がない。
□スチャヴァ市の聖ゲオルゲ(聖イオアン(Ioan))修道院(1514〜1522年)
・世界遺産。7/22(日)に一人で7番目に訪問。ここだけ無料。
・外壁のフレスコ画はだいぶ傷んでいる。
・君主が建てたので塔がある。
□フモール(Humor)修道院(1530〜1535年)
・世界遺産。7/21(土)にガイドと2番目に訪問。
・外壁のフレスコ画かなり健在。
・赤が顕著で「フモールの赤」として有名。
・領主が建てたので塔がない。
□モルドヴッツァ(Moldovita)修道院(1532年)
・世界遺産。7/21(土)にガイドと3番目に訪問。
・外壁のフレスコ画かなり健在。黄色が顕著。
・壁画では「コンスタンチノープルの戦い」が特に有名。
・君主が建てたので塔がある。
□スチェヴィツァ(Sucevita)修道院(1581〜1601年)
・世界遺産ではない。7/21(土)にガイドと4番目に訪問。
・外壁のフレスコ画ほぼ完全に残っている。「天使の梯子」が特に有名。
・緑と赤が顕著で「スチェヴィツァの緑」として有名。
・貴族が建てたが塔がある。
・外壁にフレスコ画がある最後の修道院。
□ドラゴミルナ(Dragomirna)修道院(1609年)
・世界遺産ではない。7/22(日)にガイドと6番目に訪問。
・外壁にフレスコ画はない。主教が建てたが塔がある。
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「モルドヴァ地方の修道院群
シュテファン・モルドヴァ大公は戦いごとに教会や修道院を建てた。息子のペトル・ラレシュは外壁にフレスコ画を描かせた。文盲の一般信者や兵士たちのために聖書の教えを描き始めたといわれる。外壁に壁画が描かれた同時代の修道院,教会が集まって現存する例は、世界でも珍しい。プロボタ修道院の修復は日本政府の支援で行われた。」
(「世界の建築・街並みガイド5」(エクスナレッジ社)より)
「1993年から世界遺産に登録され始めたモルドヴィツァ、アルボーレ、フモール、ヴォロネッツ、スチャバ、パトラウツィ、プロボタの7つの修道院のうち、モルドヴィツァからヴォロネッツまでの4カ所と、スチェヴィッツァ僧院を合わせた5つが『5つの修道院』として特に有名で、訪れる人が多い。」
(「東欧の郷愁」菊間潤吾・監修(新潮社)より)
※モルドヴァVSモルダヴィア
モルダヴィア(Moldavia)は英語で、モルドヴァ(Moldova)はルーマニア語です。
ただし、ルーマニアのお隣も「モルドヴァ(モルドヴァ共和国)」というので、紛らわしいですね。
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ヴォロネツ修道院のイラスト俯瞰図
RomanianMonasteries.orgのサイトで購入したMetaneira社のブコヴィナ修道院ガイドブックより
南面から見たところになります。
右手にある木の門から中に入りました。
南面と左手の西面が、特に壁画の保存状態が良いです。
有名な「最後の審判」の壁画は、西面いっぱいに描かれています。
同じイラストは、上記サイトのこちらにも掲載されています。
・ヴォロネツ修道院
http://www.romanianmonasteries.org/images/voronet/voronet.html
・RomanianMonasteries.orgのサイトのブコヴィナ地方の修道院トップページ
http://www.romanianmonasteries.org/allchurches.html
旅行の下調べに役立ちました。特にイラストと写真は一目瞭然ですからね。
「ヴォロネツ修道院の創立者は領主シュテファン大公。ヨーロッパの中でも最も美しい修道院の一つといわれています。1488年に、4ヶ月未満という記録的な短期間で建てられました。教会には、モルドヴァ国の保護者『聖ゲオルゲ』の名前がつけられています。毎年4月23日、『聖ゲオルゲ』の成人の日のお祝いが行われます。ビザンチン様式とゴシック様式が融合した、建築様式によるこの建物は『三つ葉の形』をしています。これは、当時の典型的な修道院の建築デザインでした。建物は聖壇、民衆のための場、入口の部分で構成されています。
ヴォロネツ修道院といえば、外壁の美しい壁画が有名です。当時のまま現存する壁画で、『東欧のシスティナ礼拝堂』とも呼ばれています。壁画に使われている色彩のうち『青』がとくに際立っているのです。この『青』は『ヴォロネツの青』として世界的に有名。絵のテーマはすべて聖書のシーンです。中でも最も有名な絵は東の壁面の描かれた『最後の審判』。この壁画は世界的な傑作と言われています。」
(ルーマニア政府観光局公式サイト「世界遺産─Bucovina─ブコヴィナ地方の修道院」より)
http://www.romaniatabi.jp/unesco/bucovina.html -
ヴォロネツ修道院の教会の立体図と平面図
RomanianMonasteries.orgのサイトで購入したMetaneira社のブコヴィナ修道院ガイドブックより
http://www.romanianmonasteries.org/buybucovinabook.html
平面図、左から
・EXONARTHEX=エキソ・ナルテックス、外拝廊。
教会の玄関広間にあたります。このエキソ・ナルテックスの外壁に有名な「最後の審判」の壁画があります。
ここはいわゆるオープン・ポーチ(開かれた玄関)です。
時代が進むにつれて、この部分はだんだんと壁に囲まれていきます、スチェヴィツァ修道院では完全に1つの部屋となっています。建築技術が進んだためにそれが可能となりました。
ヴォロネツ修道院では、太い壁と屋根を支えるために、でっぱりがあるのみです。
ちなみにこの部分は、シュテファン大公のときではなく、息子のペトル・ラレシュのときに増築されました。
・PRONAOS=プロナオス、いわば第一前室。
・NAOS&TOWER=ナオス、いわば第二前室と塔。
イコノスタシスが拝めます。ここまでが正教会の中のいわゆる「俗」世界。
・CHANCEL=内陣。
イコノスタシスの奥で、教会の中のいわゆる「聖」の世界。聖職者しか入れないところです。
塔は、マラムレシュ地方の場合はプロナオスの方の上に延びていましたが、ブコヴィナ地方の修道院の教会は、ナオスの上にあります。この違いは面白いですね。
★イコノスタシスについて
正教会に必ずあるイコノスタシスは、聖なる空間と俗世を隔てる壁であると同時に、ここをミサのときに司祭が聖書を持って行き来することから、2つの世界を結び付ける存在でもあります。
詳しくは、以下の写真コメントに「イコンのこころ」(高橋保行・著/春秋社)からイコノスタシスについての抜粋引用をご参照ください。
関連の写真
ブラショフのルーマニア正教会のイコノスタシスの写真
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/11967865/
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/11967883/
関連の旅行記「2006年ハンガリーとルーマニア旅行第18日目(4):ブラショフ中央公園とルーマニア正教会」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10135677/ -
夢に見たヴォロネツ修道院
門を入ってすぐ目に飛び込む光景。
まずは、聖人のヒエラルキーのある東面と「エッサイの樹」のある南面
半円状になっているのが東です。ここは、正教会の中でも、イコノスタシスの奥にあって聖職者しか入れない内陣があるところです。
「エッサイの樹」というのは、キリストが旧約聖書のダビデ王の子孫であることを示す系譜です。エッサイというのはダビデの父です。実際はどうかというのは別として、ダビデとキリストを結びつけることで、旧約聖書で預言されている救世主はキリストであるという解釈の根拠の一つにしていて、旧約聖書と新約聖書の架け橋にしているようです。
入場料は7レウ、写真代は10レウでした。
(2007年7月現在、1レウ=約55円で換算)
この値段は、規模の小さいアルボレ修道院やフモール修道院を除き、「5つの修道院」でほぼ共通でした。
「正教の修道院はすべて東向きに建てられている。それは、神の威光は昇る太陽に譬えるという伝統的な信仰に基づいている。教会の建物に立派なポーチ(玄関)が付随しているのも、ブコヴィナの修道院群の特徴の一つである。ポーチの天井も、むろんフレスコで覆われている。」
「どの修道院もそれぞれ一人の聖人をパトロンとしている。その記念日は地域住民にとって最も大切な祝祭日となる。」
(「旅名人ブックス ルーマニア 伝説と素朴な民衆文化と出会う」(日経BP社)より)
ヴォロネツ修道院の場合は、創立者シュテファン大公の対オスマントルコの戦勝記念に建てられたため、勝利の天使ゲオルゲ(聖ジョージ)に捧げられています。 -
鮮やかに青が残る南面とバラ園
「当時の兵士や一般農民はほとんど文字が分からなかったため、スラヴ語の祈祷書も読むことはできなかった。また、彼らは教会の内部に立ちいることを許されていなかった。そこで教会の外壁に、聖書に出てくる有名なエピソードや場面を描いて、彼らの興味を喚起し教育することを思いついた。いくぶん漫画タッチに描かれているのも、彼らが理解しやすいようにと考えてのことであった。」
(「旅名人ブックス ルーマニア 伝説と素朴な民衆文化と出会う」(日経BP社)より) -
システィナ礼拝堂にたとえられる南面のフレスコ画「エッサイの樹」
窓の左の角の上には、キリスト生誕シーンが見られます。 -
南面のキリスト生誕シーンのフレスコ画に注目
赤いマントに身を包んだ聖母マリアが洞窟みたいなところで横になっているのが分かるでしょうか。
傍らに幼子キリストがいて、動物たちが見守っています。
キリストの誕生の場所は、馬小屋の説もあるし、洞窟の説もあります。諸派で一致していないようです。
左側にいるのは大工のヨセフでしょうか。
巻物を広げたような白いところに、台詞が書かれてあるはずですけど読めません@
ちなみに、こちらが私がイスラエルのベツレヘムで見てきた、生誕教会の中にあるキリスト生誕の場所の写真です@
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/10625097/
関連の旅行記
「1998年秋のイスラエル旅行11日間(9日目:ベツレヘムほか半日ツアー&イスラエル出国)」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10046680/ -
天使や聖人のヒエラルキーが描かれている南東面
教会の平面図はクローバーの形をしていて、3つの葉っぱのでっぱりのところに天使や聖人のヒエラルキーが描かれています。
この写真にははっきり写っていないのですが、一番の花と蔓模様の下に、円形の中に描かれた大天使の層があり、その下の長細い半円状のくぼみの中にセラフィム(三対(6枚)の翼をもち、体のない天使)、そして4層の人物像は、上から預言者、使徒、僧侶・隠者、そして一番下は殉教者の層となっています。 -
異教徒はトルコ人の姿
おお、これがそうか!と思ってズームで撮りました。
イタリア・ルネサンス絵画で遠近法が取り入れられる前の、いかにも中世絵画っぽい街の背景の描かれ方も、なかなか興味深いものですから。
ここはおそらく、スチャヴァの聖人で殉教者のゲオルゲの生涯が描かれているところだと思います。 -
聖人の殉教シーン
異教徒はトルコ人の姿ですよね。
でも、スチャヴァの聖人で殉教者のゲオルゲは13世紀のビザンチン時代の人で、信仰を捨てるように迫ったのはタタール人ことモンゴル人なのです。
1330年、まだ30歳でした。このフレスコ画のとおり、馬で市中引き回しの刑で殺されてしまったようです。
ルーマニア史上、タタール人の脅威も大きかったはずですが、やっぱり人々にとって怖ろしいのは、いま、自分たちを襲う同時代の侵略者ですからね。
参考URL「スチャヴァの聖ゲオルゲ」(露語・英語のみ)
http://www.ukrainian-orthodoxy.org/saints/beauty/stjohnofsuchava.php -
南面の鮮やかな青
ぐるぐるといろんな角度から摂りますよ、このフレスコ画を。
だって本当に楽しみにしてきたんですもの。
左から、スチャヴァの聖ゲオルゲの生涯のシーン、そして1列だけギリシャ哲学者を挟んで、特に青が鮮やかな「エッサイの樹」のフレスコ画。
入口はふつう西面に設けられるのですが、このヴォロネツに限って、西側に設けられています。
人の出入りがひっきりなし!
ハイシーズンの7月だったこともあり、観光客に大人気でした@
でも、いくら観光客が多いといっても、狭い教会の中を好きなだけゆっくり見て回れる余裕があるのです。 -
背景の青が鮮やかな、南面の聖ゲオルゲの生涯の一場面
私はこのシーンをイエスの殉教のシーンかと勘違いしてみていました。
それにしては、覚えのないシーンがあってヘンだなぁと思っていたのですが。
「あれはイエスがゴルゴダへ連れて行かれるところ?」とガイドのニコラエさんに聞いても、さすがにこの教会のすべてのフレスコ画に精通しているわけではなかったのでしょう、「違うと思う」とまでしか言っていませんでした。
ニコラエさんは、すでに知っている知識のほか、壁画に描かれた古いルーマニア語を読んで、何が描かれているか補足説明してくれましたが、ここは文字がなかったですからね。 -
西面の有名な「最後の審判」のフレスコ画
この鮮やかな青のヴォロネツ修道院の中でもハイライト中のハイライトの壁画です。
午後の西日が当たり、影の部分が暗くなってしまっているのは残念です。こういうときだけ、曇り空の方がきれいな写真が撮れるんですよね。
まず目につくのが右手にある赤い川でしょう。
地獄を流れる血の川、あるいは火の川です。
一番下の真ん中は、天国への門の前に導かれた人々で、その右が天国です。
そしてこの部分がいわゆるオープン・ポーチ、すなわち「開かれた玄関」。
ここの部分はシュテファン大公のときではなく、その息子のペトル・ラレシュの時代に増築されたそうです。
「ここヴォロネッツ最大の見どころは、西壁いっぱいに描かれた『最後の審判』である。ブコヴィナで最も優れたフレスコ画の呼び声が高い。巨大な画の天頂は12宮図を巻き上げる天使たち。中段には死者とすべての生きとし生ける者が審判に臨む図。そして下段はイエスの復活である。北壁は創世記、南面はエッサイの樹、さらに東面には聖人伝がびっしりと描かれている。」
(「旅名人ブックス ルーマニア 伝説と素朴な民衆文化と出会う」(日経BP社)より)
「最後の審判」は5層からなり、東方キリスト教美術としては非常にユニークなものです。
絵の中に画家が入れたオリジナリティは、モルドヴァ地方の楽器である羊飼いの角笛ブチューン(bucium)と、コブサ(cobsa)と呼ばれる、弦が10本あるギターのような楽器です。
(情報源:ヴォロネツ修道院で買ったブコヴィナ・パンフレット) -
西面の有名な「最後の審判」のフレスコ画の下から2層半分
右側は、地獄に流れる血の川(あるいは火の川とも)と、あらゆる場所から死者が甦る場面が下から2層にわたって描かれています。
左端は1番下の層に天国が描かれています。その左隣には、天国の門と、これから天国に入れてもらえる人々。
天国行きが決まった人々の行列は、左端の下から2番目の層までずらっと続いています。
「『最後の審判』とは、生きている人々はもちろん、すべての死者も復活して整然の行いを神に裁かれる、人類最後の日。神に選びれたものは天国の門へ、罪業の深いものや異教徒は地獄へ。天使が奏でる楽器はルーマニアのブチューンで、地獄に落ちているのはここでもトルコ人である。」
(’07〜’08年版「地球の歩き方」より) -
「最後の審判」のフレスコ画の中心の細部
終末の日に審判を下すキリストが王座に座っています。
その足下から地獄へ続く血の川が流れています。
キリストの下には、精霊のハトが見られます。
ハトの前には聖書があります。ハトの上の天秤は、死者の生前の行いを秤にかけて、天国行きか地獄行きを決める審判のためのものです。 -
「最後の審判」のフレスコ画の死者の甦りの場面
最後の審判の日に、墓から死者が甦ります。
甦る死者の魂は、白くてもわーんとした、かろうじて人とわかる輪郭のもので表現しています。
どのような死に方をしても、みな甦ります。
たとえば海で亡くなった人の魂は海から甦っています。
魂が動物(ライオン、ドラゴン、ゾウなど)の口から甦っているのは、獣に食われて亡くなった人を表わしています。
ゾウは肉食ではないですが、この時代の人たちは本物のゾウを知らず、恐ろしい動物の象徴として描かれたのでしょう。
天使たちが角笛を吹いて、死者に最後の審判の日が到来したことを知らせます。
その天使が吹く角笛は、この地方の伝統的な楽器である「ブチューン」です。
よって画家が地元の人だと推測できるわけです。 -
「最後の審判」のフレスコ画の死者の甦りの場面の細部
海からも死者が甦っています。 -
「最後の審判」のフレスコ画の天国の部分
左端から、旧約聖書の主人公たち、イスラエルの始祖である族長アブラハム、ヤコブ、イサク。手に持っているのは、天国に入ることができた良き人々の魂です。
それからキリストの洗礼をした洗礼者ヨハネ、そして天使に囲まれた聖母マリア。
天国がすばらしいところであることの象徴に、植物が描かれています。 -
「最後の審判」のフレスコ画の上から3層目まで
光円の中にいるキリストの両サイドには、ベンチに座った12使徒が6人ずつ。
その後ろには天使が控えています。
その一番下の列、聖霊のハトと聖書と天秤の両サイドには、審判を待つ人々が描かれています。
左側は、いずれ天国に導かれる人々です。預言者や司祭や殉教者や隠者。彼らは聖パウロによって天国へ導かれます。
この写真では欄外になってしまいましたが、右側は、どうやら地獄に行くことが決まっている人々が描かれています。 -
審判を待つ人々
「最後の審判」のフレスコ画の上から3層目の左側です。
どうやら地獄行きが決まっている人々のようです。
トルコ人、ユダヤ人やタタール人、アラブ人がいます。その特徴が分かるよう、とても写実的に描かれています。
仕方がないですね。彼らが当時のキリスト教徒にとって、恐れるべき敵、嫌われた人々のステレオタイプでしたから。
彼らを地獄に案内するのはモーゼです。
「ヴォロネッツ修道院の壁画でもっとも有名なのが外壁に描かれている『最後の審判』だ。壁からあふれんばかりに聖書の「最後の裁き」が描かれている。それは修道院の屋根を支える最上層部の木造部分にまで及び、そこには神による裁きを受けた後、選ばれた者のみ天国への門へ導かれる様子が克明に描かれている。面白いのは地獄に落ちるに相応しいと判断された異教徒として、当時敵対していたトルコ人が描かれていることだ。(後略)」
(「東欧の郷愁」菊間潤吾・監修(新潮社)より) -
天国の鍵を持つペテロと天国への入口
赤い扉には、正義の剣を持つ大天使が見張りに立っています。
天使も背景の色と同じ赤で描かれているので見づらいですけどね。 -
残念ながら傷みの激しい北面
北面の傷みが激しいのは、スチェヴィツァ修道院を除き、外壁にフレスコ画が描かれている修道院に共通しています。
こちらの面が風雪にさらされやすいからです。
それでもフレスコ画は一部、確認できます。
旧約聖書の創世記の場面が描かれていました。
天地創造からカインとアベルのエピソードまで。 -
傷みの激しい北面の中でもきれいに残っている部分
上の列の一番右端の3つは、人類史上初の人殺しのカインとアベルのエピソードです。
外壁のフレスコ画をじっくり鑑賞したあとは、教会の中に入りました。
中も正教会らしく、フレスコ画ぎっしりです。近年修復されたので、色も鮮やかです。
残念ながら中は撮影禁止でした。 -
再び全体の姿を
「(前略)シュテファン大公の命で1488年に完成した。東面に『聖人伝』、南面には『エッサイの樹』、そして西面には『最後の審判』の絵がすばらしい。
通常、キリスト教会堂の入口はすべて西側に設けられている。東方エルサレムに向かって祭室があり、十字架が安置されるから、入口は西方を向く構造になっているのだ。しかし、ヴォロネツの聖堂入口は『最後の審判』を完全に描ききるため、西方にはない。」
(’07〜’08年版「地球の歩き方」より) -
門の近くから全体を
★ヴォロネツ修道院の歴史
ヴォロネツ修道院は、苦難の時代に隠者ダニエルによってアドバイスを受けたシュテファン大公が、感謝の印に礼拝の場とするために建てました。建築は、1488年に、3ヶ月と3週間で完成しました。
教会は、勝利をもたらす聖ゲオルゲに捧げられました。
外壁にフレスコ画が描かれたのは、シュテファン大公の息子のペトル・ラレシュのときです。1547年、主教グリゴリエ・ロスカ(Grigorie Rosca)は、ペトル・ラレシュに対し、ブコヴィナ地方の修道院の外壁にフレスコ画を描くよう進言しました。
当初は修道士たちがここで隠遁生活を送っていましたが、ブコヴィナ地方がハプスブルグ帝国に併合された後、1785年に閉鎖されました。
再びここに修道士たちが住まうようになったのは1991年4月1日からですが、修道士ではなく修道女たちの修道院となりました。現在、彼女たちは、祈りと労働の日々を送りながら、訪問者のガイドも行っています。
(ヴォロネツ修道院で買ったブコヴィナ・パンフレットより抄訳) -
おまけ
周辺の屋台にはブコヴィナ地方の伝統衣装@
いわゆる「5つの修道院」は格好の観光地になっているので、どこも周辺にこのような屋台があるかと思ったのですが、ヴォロネツ修道院の周辺が一番賑やかで、店の数も多く、品数も多そうでした。
このときは初日でもあり、買い物したい気持ちはほとんどなかったのですが、翌日、ちょっと残念に思いました。 -
ブコヴィナ地方の伝統衣装のシャツ
ヴォロネツ修道院周辺の屋台にて
ブコヴァナ地方の伝統衣装は、刺繍がこのようにとても鮮やかです。
山を越えてお隣のマラムレシュ地方とはがらりと違いますね。
マラムレシュ地方の伝統衣装をまとった少女たち
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/13169519/
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/13169523/
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/13169524/
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/13169525/
関連の旅行記
「2007年ルーマニア旅行第13日目(2)マラムレシュ地方:祝日のミサはおめかしして───ドラゴミレシュティ修道院にて」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10205795/ -
ブコヴィナ地方の伝統衣装のジャケット
ヴォロネツ修道院周辺の屋台にて
羊の皮でできていると思います。
ぶ厚くて重そうですが、とても暖かそうです。
去年シギショアラのお土産屋で見つけたこちらの民族衣装も、もしかしたらトランシルヴァニア地方のものではなくて、ブコヴィナ地方のものだったのでしょうか。
どことなく似ています。
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/11890429/
関連の旅行記
「2006年ハンガリーとルーマニア旅行第17日目シギショアラ(5):初めて見るルーマニアのお土産」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10130681/
ブカレストの農民博物館で見たこの男性の民族衣装も似ています。
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/pict/12349415/
関連の旅行記
「2006年ハンガリーとルーマニア旅行第22日目ブカレスト3日目(4):農民博物館(3)衣装・刺繍コレクション(完):」
http://4travel.jp/traveler/traveler-mami/album/10158486/ -
ヴォロネツ修道院で買ったパンフレット
「Le Saint Monastere de VORONET(聖ヴォロネツ修道院)」
「BUKOVINA the monastery archipelago(ブコヴィナ修道院群)」
価格はこの2冊をあわせて23.00レウでした。
(2007年7月現在、1レウ=約55円で換算)
ニコラエさんが値段を聞いてくれたので、1冊ずつの価格は不明。
ヴォロネツ修道院そのもののパンフレットは、屋内の壁画の写真があって手ごろな分厚さのものは、英語版が売り切れていました。
仕方がないので、フランス語版を買いました。文字がそう多くないし、読めないことはないので。
そのフランス語版の表紙のところ、もともと最初の定冠詞が複数のLesとなっていたのを、青いボールペンで手書きで消してLeに直されています。
買ったときは気付かなかったし、その場ではイヤだなと思ったでしょうが、今となっては、これもなかなか面白い記念品です@
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この旅行記へのコメント (4)
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- ナオトさん 2013/08/16 15:11:42
- 知らなかった!
- ルーマニアにはこんなに壮大な修道院があったなんて。
一度は絶対に訪れてみたいですね
- まみさん からの返信 2013/08/16 20:56:03
- RE: 知らなかった!
- ナオトさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
素晴らしいですよーー。
規模は小さいですが、なんと言っても、壁画が素晴らしいです。
こういう修道院がいくつもあります。
> ルーマニアにはこんなに壮大な修道院があったなんて。
> 一度は絶対に訪れてみたいですね
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- パパスさん 2008/01/05 17:14:48
- ブコヴィナ地方:青のヴォロネツ修道院
- 天気も良くて綺麗に写されていますね!
後でゆっくり訪問させて頂きます。
今年のルートに勉強します。
パパス。
- まみさん からの返信 2008/01/07 12:46:08
- RE: ブコヴィナ地方:青のヴォロネツ修道院
- ハパスさん、こんにちは。書き込みありがとうございます。
ひょっとしたら今年はルーマニア再訪を狙っていますでしょうか。
候補の一つかしら。
それはすばらしいです。
ヴォロネツ、ぜひルートに加えてみてください@@
そして壁画も、意味が分かると面白いので、ぜひこの旅行記を参考になさってくださいね。全部を網羅しているわけではないですが。
一番いいのは、metaneira社のブコヴィナ修道院ガイドブックですが。。。壁画のわりと詳しい図解があるんです。
なので、ニコラエさんの説明で足らなかったところは、この本で補足しています。
でもこれは重量が1kgあるし、円貨にして8000円くらいしたし、CD-Rは規格が違うから見れなかったし(泣)、こだわりのある人でないとなかなか買う気にはならないでしょうね。
でもサイトはなかなかよくできていますよ。
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