いつか見た映画のような旅 〜密林に眠るかつての王都。その周辺に息づく人々に出会う〜:クロマーさんの旅行ブログ

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いつか見た映画のような旅 〜密林に眠るかつての王都。その周辺に息づく人々に出会う〜

いつか見た映画のような旅
密林に眠るかつての王都。その周辺に息づく人々に出会う

 カンボジアで世界に認められた二大世界遺産「アンコールワット」と「プレアヴィヒア」。その両遺跡に隣接するように点在する三つの巨大遺跡群。その立地、アクセスの悪さから訪れる者はまだまだ少ないが、それらの規模、歴史的価値から近い将来、第三、第四の世界遺産として登録されてもおかしくはない。

 未来の世界遺産。この国の新しい宝石。そんな遺跡群がこの地にはまだまだ眠っている。ずっと昔、カンボジアに初めて来た時に現地ガイドが目をキラキラさせながら話していた。彼は、彼自身もまだ目にしたことがないというその遺跡群に対し、この国の将来、未来の自分の姿をだぶらせて語気を荒げていたことを思い出し、出発することにした。


第1日目 午前 シェムリアップ〜コーケー

 寝苦しいほどの暑さだ。ベッドシーツは寝ている間に流れ落ちた汗でうっすら湿っている。流れ出た水分を補うように、冷蔵庫から取り出した冷たい水を喉の奥へと流し込む。明日からクメール正月だ。ちょうど乾季から雨季へと変わる四月中頃にカンボジアは正月を迎える。その期間は熱帯夜が続き、暑さに強いカンボジア人でもぐったりしていることが多い。ついでに言うと、正月気分と暑さが入り混じり、仕事の効率が一気に落ち込む時でもある。
 GPSの電源を入れ、国道6号線を東へと向かう。正月を明日に控えた国道には多くの乗合タクシーやバンが列をなしている。8シートしかない車内にはその倍以上の人々が詰め乗り、溢れ出た者は屋根の上に座っている。
 なんだろう。人だかりに吸い寄せられるようにバイクの速度を落としていくと、輪の中心には大破した大型トラックが大木にめり込んでいた。集まっている野次馬から話を聞く。全員無事だ。運転手も無事でピンピンしていたそうだが、社長に怒られるのを恐れてどこかに逃げてしまったそうだ。残された同乗者は仕方なく仲間を呼び荷物を移し替えていた。
 アンコールワットとほぼ同時期に建造されたベンメリア寺院。通常の観光客にはほとんど知られていないが、この寺院も他の大型寺院同様に大きな貯水池を持ち、近くには小寺院が点在している。ただし、寺院周辺には未だ地雷が数多く残っており、ガイドなしでの小寺院見学は取り返しのつかない事態となる恐れがある。寺院すぐ近くにはアンコールワット周辺遺跡にも使用された石切り場、東へとまっすぐ伸びる一本道を進むとプリアカンコンポンスヴァイ寺院、北へ向かうとコーケー遺跡群へと繋がっていることから考えると、当時はかなり重要な役割を担っていた地方拠点だったのだろう。
 ベンメリアから北上し赤土の凸凹道を走っていく。勾配の少ないのっぺらな大地。地雷撤去のために焼き払われた灌木のためか、緑が少なくスカスカな茶色空間となっている。アンコールワットよりさらに昔に建造された王都コーケーへと到着した。道路脇には木々に囲まれた背の高い寺院がひょっこり顔を出している。大小様々な寺院を横目に、乾燥した大地をゆっくり駆けていく。ひと際大きな門構え、一番大きな寺院に足を止める。崩壊している中央部を横目に内部へと進む。以前と較べると観光客向けの順路整備、遺跡保護が進んでいるようだ。千年前から放置されていた寺院環濠、長年の草木が堆積し、自然と埋め立てられていたのだが、最近取り去られたようで、流れ込んだ雨水により昔の体をなしていた。
 遠くから聞こえてくる蝉しぐれ、日本のそれとは違い、一定レベルの高音が途切れなく続いている。環濠脇に腰掛け耳を傾けていると、黄色い線香と花を携えた家族連れが歩いてきた。少し大きな一眼カメラを肩から掛けていたからだろう、観光客向けカメラマンと勘違いされたらしく、家族写真を撮ってほしいという。せっかくだからと撮影するが、渡されたメモには聞いたことがない村名と、名前だけが書き込まれていた。


第1日目 午後 コーケー〜プノンダエク

 雨季近いカンボジアは午後からスコールが降ることが多い。降り出す前に少しでも距離を稼ぎたい。コーケーより東、クーレン村を抜けプレアヴィヒア州・州都トベンミエンチェイへと辿り着いた。昨年度世界遺産となり、新たな紛争の火種となったプレアヴィヒア寺院から、はるか遠いこの州都はどことなく寂れた感がある。
 どこかで道を間違えたのだろうか、道路幅がだんだん小さくなり、いつの間にやらただの農道へと入ってしまっていた。とりあえず方向は正しいはずだ。根拠なき自信で無理やり前へ、前へと進んでいくと手作り関所に行く手を阻まれた。「この道を整備したのは自分達だ、だから通行料を払え」。私有地ならともかく、公共道路でのプライベート関所にはどこか納得がいかないが、他の地元民もしぶしぶ払っているようだ。仕方ない、小額の通行料を支払うと、ゲート脇にちょこんと座っていた子供がニカッと笑って手を振った。
 西の空から黒雲が流れてきている。ポツリポツリと雨が降り始めた頃、小さな村プノンダエクに宿をとることにした。


第2日目 午前 プノンダエク〜サンボープレイクック(コンポントム州)
 
 この時期には珍しく夜間ずっと降り続いていた雨だったが、早朝には上がったようだ。旅行者もほとんどいない小さな村、一軒しかない木造の民宿はトタン屋根で覆われていたため、強弱交えた雨音が、夜間一定のリズムで鳴り響いていたのがまだ耳に残っている。
 この村より西部に位置するプリアカン寺院へと向かう予定だ。宿近くの小さな食堂でバーイサッチュルー(焼き豚とご飯セット)を食べながら、道路状態を尋ねてみる。昨晩降り続いた雨の為、途中の道が冠水し、明日にならねばまず通れないという。もちろん、今日雨が降らなければのことだ。明後日の予定を繰り上げ、先にサンボープレイクックへと向かうことにした。
 もともといいとは言えなかった道路が、ひどくぬかるみ、人々の生活を一層困難なものに変えている。悪路のため進めなくなった軍用車両が、道路脇に停められている。隣国タイとの緊張状態が続くプレアヴィヒア寺院へと搬送されるのだろう。車両には人目につかぬようにテントを被せられた戦車がどっしりと座り、近くには軍服を身にまとった人々が、むき出しのカシューナッツに噛り付いていた。
 

第2日目 午後 サンボープレイクック〜コンポントム 

 グレーの空が、水色へと変化し、青空へと切り変わる。時を同じく、深い濃茶色の大地は、赤く変化し、乾燥した薄いオレンジ色へと変わって空へと舞う。アンタック時代に亡くなってしまったボランティア日本人、中田厚仁さんを讃えて作られた村(通称:アツ村)を抜け、小さな橋を渡るとすぐに、サンボープレイクック寺院群へと到着した。
 点在する高木の隙間からは小さな寺院がいくつも顔をのぞかせている。クロマー売りの女の子たちの案内のもと、だだっ広い遺跡群を散策する。片言の英語を話すプチガイド達は、無理やりクロマーを押し売りしようという気配もなく、鼻唄を口ずさみながらついてくる。アンコール王朝以前の真臘時代に造られた祠堂は崩壊の進んでいるものも多い。全体的にすっきりとしたオレンジ色のレンガで造られ、先のコーケー遺跡群の持つ力強い男性的イメージから較べると、しなやかな女性的な美しさを醸し出している。周壁に護られた三つの寺院群、その一つ一つはまるで三姉妹のようにそれぞれが違った表情を見せていた。
 首都プノンペンと、古都シェムリアップの真ん中に位置するコンポントム。別段目立ったものもない小さな地方都市であり、都市間を結ぶ長距離バスがひっきりなしに行き交う、サービスエリア的な町である。新年を迎えた今日、道路脇に並ぶ屋台や民家には大きな星が飾れている。いつもより華やかな雰囲気の町を歩いていると。正装に身を包んだ人々が列をなして大きな現代寺院へと入っていくのに気づき後を追うことにした。寺院敷地内にはこの日の為に作られた五つの砂山が作られている。初詣に訪れた人々はその山の周りをゆっくりと三周ねり歩くと線香を供えて去っていた。


第3日目 午前 コンポントム〜大プリアカン

 今日も快晴だ。昨朝とは打って変って乾燥した道路が続く。この調子だと水没した道路も干上がっていることだろう。再びプノンダエクの村落を通り過ぎ、小道を脇にそれる。所々に岩盤がむき出しになっている道路から、乾燥した砂漠のような小道へと続く。細かい砂の道路は滑りやすく、少し気を抜くとすぐにハンドルがとられ、タイヤは流れ出す。スピードメーターが20kmを回ることもない、速度の出せないエンジンから熱風が巻き上がってくる。
 うんざりするほどの時間をかけ、やっとの思いでタサイン村へと辿り着いた。雨季になると流れ出る雨水のため数本の深い川が出現し、村から外界へと続く道路を寸断する。一年の半分ほど、外界から閉ざされる特殊な村落だ。ここまで来るともう目的の寺院は目と鼻の先だ。のどの渇きをいやそうと小さな屋台へと向かう。氷など、もちろんない。


第3日目 午後 大プリアカン〜シェムリアップ
 
 土嚢のような外周壁が一辺5kmという大きな寺院プリアカンコンポンスヴァイ(通称:大プリアカン)、地元の者にはバカン遺跡とよばれているようだ。一辺5kmといってもその中に点在する遺跡の規模、数は他の遺跡群と較べても多くない。屋台に座っていた子供を道案内に、象を祀る寺院「プラサットドムライ」へと向かうと、お参りに訪れた村人で溢れ、線香の煙に包まれていた。四方を守る象の彫像はオレンジの袈裟に纏われ、中央の寺院には真新しい金象像が奉納されていた。
 遺跡群の中央寺院へと向かう途中、一基の四面仏塔がポツンと座っていた。何百年も一人ぼっちだったのだろう、どことなく寂しげな彼は行き交う人々を優しく見つめている。到着した中央寺院はひどく破損していた。そのほとんどは内戦後の貧しさから盗掘されたもので、石の切り口は真新しい。特別な機械など使わず力任せに引き倒し、石ノミをあてていったのだろう。女神像や仏陀像の多くは削り取られ、見る影もなくなっていた。
 日の高いうちに悪路を抜けておきたい。タイムリミットはあと少しだ。正月帰省だろう、若い僧たちが荷台に揺られながら楽しそうに話している。途中の小さな村では、老若男女が白いパウダーを顔全体に塗りこみ、新年のダンスを楽しみんでいた。

エリア: アジア >>カンボジア >>その他の都市
テーマ: 世界遺産
時期: 2009年05月10日〜05月13日
投稿日: 2009年11月23日
写真: 全5枚
満足度: 評価なし
観光: 評価なし
ホテル: 評価なし
グルメ・レストラン: 評価なし
ショッピング: 評価なし
交通: 評価なし
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  • 誕生日:02月19日
  • 登録:2008年03月15日

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