月世界 月面の旅とアンドレジイドが称した カメルーン北部ルムシキ地方:marukunさんの旅行ブログ
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しばらくルムスキィのシンボルを眺めていたが、やがて厭きてホテルに帰ることにした。
今日も歩くのがとてもつらい一日になりそうだ。今日はこのあと、この村の散策の予定なのだ。
ホテルの門をくぐる直前、あいかわらずついて来る少年にズボンのポケットにあった飴をあげた。
「ボンボン、ブラザー、シスター」礼を言うどころか甘えて、さらに要求してくる。
「もうない!」
「じゃあ、ペンもくれ。学校へ行ってもペンがないから勉強できない・・・・・」
「ペン?ないない」
「ミスター・・・・・そのポケットにあるよ」
「え?」
自分で気づかなかったのだが、メモ書き用のペンをそのまま胸ポケットにさして散歩していたようだ。
もしかして少年はこのペンをあざとく見つけて、まとわりついてきたのかもしれない。
「これはアタシの旅の日記用。大切な一本しかないっ!」
「それならペンシルはないかい?」
「ペンシルはないよ」
「違うよ、ミスター。ミスターの国のあなたの家に帰るとあるはずだ。学校へ行ってもペンもペンシルもないから勉強ができない」
少年は半ベソでアタシに訴えかける、拙い英語で(それでもアタシよりかは数段流暢な英語で)。
「ミスター、その紙に僕の住所を書くから、送ってくれないか?」
ペンと同じく、日記用のカバーの手帳ではなく、メモ書き用のメモ帳がたしかに胸ポケットにある。
アタシは少年の根気に折れて、別にカメルーンくんだりまでやってきたご縁とはいえ、エンピツを送るつもりもなかったが、ささやかな友情のつもりで、長女から奪ってきた(笑)キティちゃんのメモ帳を彼に渡した。彼は、アタシから嬉々としてペンとメモ帳を受け取り、スラスラと住所と名前を書いてアタシに返した。名を―フェリ・フォリ・マジリ―という。
「では、もうホテルに帰るから、今日学校へは何時?」
「7時だよ。ミスター、出発は?」
「え〜〜と、6時半だよ、バスでね。じゃあ」
もう会うことはないし、ここは一期一会の出会い、快く手を振って別れた。
そして、6時半―――。
二人はホテルの前でお互い罰悪く、バッタリ顔を合わせた。
―おい、フェリ・フォリ・マジリ、学校はどうした?―とつっこみたくてもつっこめない。
―ミスター、バスで出発するんじゃなかったにかい?―お互いさまだからだ。
今から、この村の散策の予定なのだ。今日、歩くのがとてもつらい一日になりそうだ。
フェリは同じ年頃の仲間を連れて、アタシたちのルムスキィ散策につきまとうつもりだ。
エンピツを送る気がないことに、後ろめたい気持ちもあったが、これでせいせいもした。
出発したホテルの門からすぐ集団から離れてしまった。足のせいである。
アタシはフェリたちに付きまとわれるのを一手に引き受けたことになった。やれやれ、第2集団だ。
朝散歩した方向と逆の道沿いを行き、しばらく行くと大きな栗の木のようなマルラの木があり、そこから民家に入っていく。フェリがニタニタしながら手招きするからだ。
山にへばりつくように点在している民家をすり抜け、谷を降り、なんとか最初の集団に追いついた。
ガイドが占いをしてもらっているようだ。
どうやら、ここは呪術師(ウイッチドクター)の家らしい。
「―――アフリカは、他の地域と同様、精霊が満ち溢れている場所である。霊たちは、我々人間よりも高い次元に住んでいることは間違いはないが、神聖なる次元にというほどではない。精霊といっても、我々が親しみをもてる人間的欠陥を多くもっているのだ。ある霊は、我々の日常生活に悪影響を及ぼすので、贈りものや供儀でなだめねばならず、警戒もしなければならない。しかし、常時警戒できるだけの時間的余裕と経験をもっている人間は何人いるだろうか。遅かれ早かれ、誰もが悪質な霊のとりこになってしまうのだ。
アフリカでは、どの共同体も最低一人の専門家を抱えてこのジレンマに対処している。
<ディンガガ>と呼ばれ、霊媒・占い師としての修行を積み、可視の世界と不可視の世界との間に調和と均衡を保つことを生業とする人たちである。彼らは、霊界と交流する際にトランス状態になったり夢を利用したりするが、同時になんらかの道具を使う人も多い。そのなかで最も知られているのが「骨」という一組の占いの道具である。どの霊媒<ンガガ>(<ディンガガ>の単数形)も、それぞれが特有の<ディオタオラ>と呼ばれる魔法の骰子―トーテム動物の関節骨、コヤスガイ、べっ甲のかけら、陶器片、そして古い硬貨などでできたもの―をもっている―――。『アフリカの白い呪術師 ライアル・ワトソン著 村田恵子訳 河出文庫 』より― 」
で、ここルムスキィの呪術師は、骨でもコヤスガイでもなく、蟹を使うらしい。
異常に痩せぎすで背の高い老人がサレの奥に座り、神妙な顔をしてツボの中をかなりゆっくりした動作でいじくっている。
ツボの中に土と水を盛り、そのツボの縁に木板片を並べ、そこに蟹を一匹放りこんで、蟹の動きにより木板片を読む、ことにより占うらしい。
この背の高い老人呪術師はダムハーといい、彼は97歳になる。
この老人が呪術師として有名人なのかどうかは知らぬが、観光目的で(笑)ルムスキィを訪れたことがあるひとなら、少なからず心当たりはあるはずだ。
「――私はリュムシキという村に来ていた。隣村から乗ってきたピックアップの荷台から私が降りようとすると、荷物を受け取ってくれる青年がいた。彼は来週から学校が始まるのにまとまったお金がないので、村を案内するガイドに自分を雇ってくれといってきた。彼の案内する場所を聞いてみたら、
「・・・・・・ウィッチドクター(呪術師)・・・・・・・・」という。
私は愉快になって彼について行くことにした。
九十歳になるドウムハはたっぷり白いひげを蓄え、藍染の帽子に古ぼけたコートを羽織って現れた。
Vネックからのぞく胸や膝の破けたズボンから見える脚は骨ばっている。大きな丸い目は優しく印象的だ。以前タンザニアで会ったペテン呪術師などのような、いかがわしさは微塵もなく、身なりは貧しいが威厳を感じさせた。彼は問題解決のために蟹を使う。これはお祖父さんも代から三代続く方法らしい。
素焼きの壺の中には砂が敷き詰められていて、男や女、国、凶、などを表す木片を中央に置き、そこに壺を放すのだ。蟹は砂の上を歩きながら、ボードを動かす。そしてドウハムはその跡を読むのだった。
私はこの旅の中でわくわくしながら待っていることがひとつあった。それはナイジェリアの強烈な呪術師に会うことだった。いくらイスラム教やキリスト教が入り込んでいようが、呪術は相変わらずアフリカの精神世界の根幹にあった。ナイジャリアの強烈な呪術の世界についてはナイロビにいる間に何度か耳にしていた。ある呪術師の葬儀のとき、周辺の呪術師が集まって祈りの言葉を唱えると、屍がムックリ起き上がって、ピョンピョン跳びはねるように移動して、自ら墓穴に入っていったという。この恐るべき証言をしてくれたのは、日本人の旅人だった。私はナイジャリアのどこかで呪術の現場に触れてみたいと思っていた。
「ナイジャリアのどこで私は呪術師に出会うだろうか」と尋ねた。ドウムハは今はもう廃れてしまったマルギ語で蟹に私の質問を伝え、蓋をしたボールの中に蟹を放した。一分ほど待ったろうか、蓋を持ち上げるや、ドウムハはすっとんきょうな声を上げて笑い出した。砂の上を見ると、木片はバラバラになることなく、元の形のまま隅に押しやられていた。私は不気味だった。ドウムハは部族語でガイドに何やら伝えるが、私は彼がなぜこんな声を上げるのかつかみかねていた。
間もなくガイドが通訳してくれた。「あなたの目論見はすべてうまくいく。呪術師はあなたの行くところに待っている」と。『楽園に帰ろう』 新妻香織 河出書房新書より―― 」
ずいぶん、アタシが訪れたときとダムハーの印象が異なるようだが(笑)、それについては触れまい(笑)。
旅人はいつだって情緒と主観が入り混じった世界を全面に押し出すものだ(笑)。
ダムハーも、あれから7年歳をとったのだ。
それよりなによりも、著書のなかででてきた「来週から学校が始まるのにまとまったお金がない」という青年がフェリ・フォリ・マジリの兄としか思えなくてしょうがなかった(笑)。
いや、それよりもルムスキィの青少年たちは親から、それとも「学校で」そう教わっているのかもしれない(笑)。
そのフェリ・フォリ・マジリ(たいそう立派な名前だ)だが、アタシは彼にビデオやカメラなどを詰め込んだリュックを持たしていた。
仲間を従えるフェリはアタシのお供というわけだ。
ずっとアタシが片足を引いて歩いているのに、フェリは慈愛に満ちた相互扶助というアフリカの精神に立ち返ったのだだろうか。
「あとでペンをくれるか?」だったが(笑)。
フェリが連れてきたそのほかの少年たちは、「病気気味の父にあげるのだ」とタバコをせびる者(苦笑)や、あきらかに神聖なマルラの木ではない(笑い)木で彫った人形や楽器を「ペンを買うため」(苦笑)と、売りつけようとつきまとう。
観光化された他の国の商売人攻勢と比べれば可愛いものだが、歩くのに一苦労する今の状態ではあんまり精神上よろしくない。
娘のお土産にでも・・・・と、人形の形をしたマンドリンのような楽器を「いくら?」とは聞かずに(笑)、
「タバコと交換しないか?」と持ちかけた。
少年Bは少しとまどいを見せたが、「父さんに聞いてくる」といって一目散に丘を駆け降りて去って行ったが、すぐに戻ってきてタバコと楽器の物々交換は成立した。
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